クルマに働く自然の力

2023年5月時点の内容です。

走行中のクルマには摩擦力、遠心力、衝撃力などの自然の力が働きます。そしてこれらの力の大きさは、走行スピードに大きく左右されます。クルマの動きを確実にコントロールして安全運転を徹底するためにも、あらためてそれぞれの力の特性や速度との関連性を理解しておきましょう。

ブレーキ時の摩擦力

走行中のクルマは慣性の法則によって走り続けようという力が働き、すぐに止まることはできません。クルマをストップさせるには、ブレーキをかけて車輪の回転スピードを減速させた際の、タイヤと路面との間に生じる「摩擦抵抗の力」が必要となります。この力が慣性力を打ち消すことで、クルマは完全に停止することができるのです。

摩擦力の大きさは、アスファルト、コンクリート、砂利道などの路面の種類に加え、乾燥している、濡れている、凍結しているといった走行中の路面状態によっても異なってきます。たとえば、雨で濡れた路面や冬の凍った路面は滑りやすく、乾燥した路面に比べて摩擦力は小さくなります。これによりブレーキが効きはじめてから停止するまでの距離=制動距離も長くなるため、晴れの日以上に慎重な運転が求められます。また、路面と接地するタイヤの空気圧や摩耗などの状態も摩擦力の大小に関係していて、劣化したタイヤは摩擦力が小さくなり、スリップを起こす危険性が高まります。

思わぬ事故を回避するためにも、タイヤのメンテナンスを怠らないようにしましょう。

カーブ走行での遠心力

カーブや曲がり角を回ろうとするときには、クルマの重心に働く力により、カーブと反対の方向へ滑りだそうとします。この力が「遠心力」で、カーブの半径が小さいほど、また、走行スピードが速いほど大きくなります。このため角度のきつい(半径の小さい)カーブに高速のまま進入すると、走行ラインが大きく外側に膨らんでしまい、ガードレールに接触する、センターラインをはみ出してしまうといった事態につながることもあります。安全にカーブを回るには、ハンドルを切る前の直線部分のうちにブレーキをかけて、しっかりと減速しておくことが肝心です。さらに、カーブに進入してからは、アクセルを一定に保ってクルマの挙動を安定させることも、スムーズにカーブを通過するための重要なポイントです。

また、遠心力はクルマの重量が重いほど大きくなる特性も持っています。積み荷の重心が高くなったり、片寄ったりすると横滑りの危険性が一段と高まり、最悪の場合、横転することもあるのです。荷物を大量に積んだトラックはもちろん、車高の高いクルマなどはカーブでの運転により一層の注意が必要です。

高速道路の合分流や出口などの急カーブでの速度超過は、横転の危険性を高めます。

衝突事故時の衝撃力

クルマがほかの物体と接触したときに生じる力が「衝撃力」で、走行スピードやクルマの重量が増すほど大きくなるほか、固い障害物に衝突してしまったときなど、短時間に力が作用する場合に大きくなります。たとえば、時速40kmで走行しているクルマがコンクリート壁に衝突した場合は約6mの高さから、時速60kmでは約14mの高さから落下したのと同程度の衝撃力となり、非常に大きな力が作用します。当然、スピードが増すほど被害の程度が大きくなり、死亡事故へつながる危険性も高まります。運転中は常に走行スピードに気を配り、できるだけ控えめな速度を心がけましょう。

◆コンクリート壁に衝突した場合の速度と衝撃力の関係

時速 同等の落下速度
40km 6m
60km 14m
80km 25m
100km 39m
120km 56m

※出典:「交通の教則」(一般財団法人全日本交通安全協会)

自然の力と速度の関係

このようにクルマに働く自然の力と走行スピードは密接な関係にあります。そして、制動距離、遠心力、衝撃力はいずれも速度の2乗に比例して大きくなります。すなわち、遠心力、衝撃力の大きさは、速度が2倍になると4倍、速度が3倍になると9倍にもなってしまうわけです。制動距離で見た場合は、時速50kmの走行時に約20mで停止できたとしても、時速100kmになると約80mもの制動距離が必要となるのです。

スピードの出しすぎはクルマの挙動にさまざまな影響を及ぼします。事故を起こさず安全に走行するためには、制限速度を厳守することはもちろん、天候や路面状況などに応じてスピードを上手にコントロールする意識が大切です。とくに高速道路や夜間はスピードが出やすい傾向にあるので、いつも以上に気を引きしめましょう。