無保険車との事故は損害賠償が受けられない?対処方法をFPが解説
自動車事故が起きたとき、相手方が自動車保険(任意保険)に入っていなかったら補償はどうなるでしょうか。賠償金の請求方法や、事故のリスクに対して自分自身で備える方法など、「無保険車」との間で事故が起きたとき、どのように対処したらよいのかについて解説します。
無保険車とはどういう状態?
無保険車とは、一般的に自動車保険(以下、任意保険)に加入しない状態で運転されている車のことをいいます。自動車事故に備える保険には、自動車損害賠償責任保険(以下、自賠責保険)と任意保険があります。このうち、自賠責保険は車を所有する人に法律で加入を義務付けている保険で「強制保険」と呼ばれることもあります。ただし、自賠責保険は相手方の人への補償(対人賠償)のみで、物への補償(対物賠償)はありません。補償内容についても傷害120万円、死亡3,000万円、後遺障害4,000万円(いずれも被害者1名あたりの最高金額)と、上限が決められています。
一方の任意保険は、自賠責保険の補償だけでは不足する部分を補う保険です。相手方の人への補償(対人賠償)のみではなく、相手方の車や物への補償(対物賠償)、自分自身のケガの補償(人身傷害補償)など、自賠責保険よりも補償範囲を広くすることができます。また、保険金額(保険金の支払限度額)も、対人・対物賠償などでは無制限で設定できます。
損害保険料率算出機構「2022年度 自動車保険の概況」によると、任意保険の普及率の全国平均は、対人賠償75.4%(共済を含めると88.7%)、対物賠償75.5%です。
では、無保険車と事故が起きたときに、どのようなリスクが考えられるのかを次から見ていきましょう。
自賠責保険(強制保険)と任意保険の違いについてはこちら。
無保険車との事故で考えられるリスク
無保険車と事故が起きたとき、相手方が加害者の場合には、以下のようなリスクが考えられます。
<無保険車との事故が起きた場合のリスク>
- 1 相手方に資力がなければ賠償金を受け取ることは難しい
- 2 車の損害を自分で負担しなければいけない
ここでは、それぞれのリスクを具体的に見ていきましょう。
1 相手方に資力がなければ賠償金を受け取ることは難しい
任意保険に未加入の場合、補償は自賠責保険の保険金のみです。受けた損害が、自賠責保険の補償内でおさまればよいのですが、それ以上の損害額になったときには、不足する補償は加害者へ直接請求することになります。しかし、加害者に十分な資力がなければ、直接請求したとしても、賠償金の受け取りは難しくなる可能性があります。
2 車の損害を自分で負担しなければいけない
繰り返しになりますが、自賠責保険の補償は対人賠償のみで、対物賠償の補償はありません。車に損害を受けた場合には、補償の対象外ですから、相手方に賠償資力がなければ、修理費は全額自己負担になることも考えられます。
無保険車と事故にあった場合の対処法
無保険車との事故が起きたとき、具体的にはどのような対応をすればよいのでしょう。
ここでは、無保険車が加害者で、自賠責保険に「入っている場合」と「入っていない場合」に分けて、対応方法を見ていきます。
無保険車が自賠責保険に入っている場合
無保険車が自賠責保険に加入しているにもかかわらず損害賠償に応じない場合は、「被害者請求」という方法があります。これは、事故の被害者が加害者の自賠責保険会社へ直接、損害賠償請求する方法で、ケガの治療などがすべて終わった後、必要書類を集めて請求します。ただし、支払われるのは自賠責保険の補償額が上限です。
また、「仮渡金の請求」もあります。これは、事故の被害者が当面の費用を賄うために加害者の車が加入している保険会社に対して、被害者が仮渡金の支払いを請求する方法です。金額は、死亡事故の場合290万円、傷害事故の場合は傷害の程度により5万円・20万円・40万円の定額になります。
無保険車が自賠責保険に入っていなかった場合
無保険車が自賠責保険に加入していない場合の損害賠償については、「内容証明郵便で賠償請求」「政府保障事業に請求」「弁護士に相談」といった方法があります。
・内容証明郵便で賠償請求
加害者が賠償の意思を示さない、話し合いに応じないなど、示談に消極的な場合に有効な方法のひとつに「内容証明郵便」があります。これは、「いつ、誰が、誰に、どういった内容の文書を差し出したのか」を、郵便局が証明する制度です。示談交渉を考えているなど、相手に伝えたい内容を文書にして送付することで、加害者に対して被害者側の意思を強く伝える効果があります。
法的な効力はありませんが、内容証明郵便によって被害者の真剣な気持ちが伝わり、相手からの連絡が期待できます。また、何も反応がなかったとしても、被害者の意思表示は郵便局に残りますので、後に訴訟になったときでも、文書の内容、差出人、受取人、差し出した日付の立証方法として利用できます。
・政府保障事業に請求する
自賠責保険に加入していないために加害者に賠償資力がなく、賠償請求できない自動車事故の被害者を救済するため、国が設けた制度です。政府(国土交通省)が、加害者に代わって損害相当額(保障金)を、被害者へ立替払いします。
支払われる保障金の限度額は自賠責保険と基本的には同じです。ただし、保障金は、健康保険や労災保険など社会保険からの給付(社会保険を使わなかった場合の、給付を受けるべき額を含む)を除いた額になります。
また、保障金が支払われた場合、被害者の損害賠償請求権は国が代位取得し、国が被害者に代わって、加害者へ損害賠償請求する仕組みになっています。
保障金の請求に必要な書類は「請求キット」としてまとめられ、損害保険会社の窓口で入手できる他、自動車保険料率算出機構のウェブサイトの「請求キット 冊子Aご請求に関する書類」からダウンロードも可能です。それらの書類を記入し、交通事故証明書や戸籍謄本など、請求に必要な書類を揃えて、全国の損害保険会社の本・支店の受付窓口に提出します。なお、「請求キット」の入手や、請求書類の提出ができる損害保険会社(組合)の一覧は損害保険料率算出機構ウェブサイトをご確認ください。
・弁護士に相談する
弁護士に相談して、加害者との交渉を依頼する方法もあります。ただし、弁護士への費用がかかり、その額も弁護士によって異なります。依頼する場合には、加害者へ請求できる金額の目安を、事前に弁護士と相談しておくとよいでしょう。
また、示談がまとまらない場合の最終的な手段として、訴訟で事故を解決する方法もあります。ただし、裁判で損害賠償額が確定しても、加害者に支払能力がなければ十分な賠償金が得られず、弁護士費用が賠償額を上回って、費用倒れになる可能性があることも念頭に置いておきましょう。
もしも、弁護士への費用が心配な場合には、任意保険に「弁護士費用特約」があります。一般的には、法律相談費用として10万円、弁護士へ依頼したときの着手金・報酬などのための費用として300万円を限度に利用できます。また、弁護士費用特約は、家族で複数の車を持っていたとしても、誰か一人がこの特約を付けていれば、同居の家族全員が補償対象になることが多いようです。
ソニー損保の弁護士特約についてはこちら。
無保険車との事故にあらかじめ備えておくには?
無保険車との事故にあらかじめ備えるには、どのような方法があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
任意保険に加入しておく
ここまで見てきたように、加害者に資力がなければ賠償請求は難しく、自賠責保険に加入していたとしても、補償内容は対人賠償のみで上限額があることや、車への損害など物損に対する補償はありません。そういったときには、自分自身が加入している任意保険から補償を受ける方法があります。
自分自身が加害者になったときにはもちろんのこと、無保険車との事故で被害者になったときのためにも、任意保険に加入しておくことは事故のリスクに備える有効な方法です。
代表的な任意保険の種類は?
任意保険には、いくつもの補償がありますが、無保険車との事故で受けられる補償には次のようなものがあります。
人身傷害補償保険
自分自身や同乗者が、ケガや死亡したときに補償される保険です。治療に要した費用はもちろん、休業損害、慰謝料なども補償されます。大きな特徴は、過失割合に関係なく損害額が補償される点や、示談の成立を待たずに先に保険金を受け取れる点です。
また、補償プランによっては、乗車中だけではなく、歩行中に自動車事故にあったときにも補償されます。家族で複数台の車を保有している場合でも、一家に一つ人身傷害補償保険がついていれば家族全員が補償対象になることが多くなっています。なお、他の契約は「乗車中のみ補償」にしておくことで、補償の重複防止と保険料の節約になります。
搭乗者傷害保険
乗車中のケガや死亡したときの補償には、搭乗者傷害保険もあります。人身傷害補償保険と同様に、自分自身と同乗者が補償対象になります。ただし、保険金の支払われ方には違いがあります。人身傷害補償保険が実際の損害額を補償する実損払いであるのに対して、搭乗者傷害保険は定額払いです。
例えば、事故が起きた日を含めて180日以内に入院・通院した場合、一人あたり1万円(入院・通院4日以内の場合)などといったように、一時金で保険金が支払われます。
無保険車傷害保険
事故相手が無保険、または保険に入っていても補償内容が不十分なときに備える保険です。死亡あるいは後遺障害を負った場合に、事故相手(無保険車を運転中の人など)が負担すべき損害賠償額のうち、自賠責保険の保険金額を超える部分に対して補償されます。
なお、無保険車傷害保険は、保険会社によっては人身傷害補償保険の補償に含まれている場合があります。
車両保険
車に損害を受けたときの修理費に備えるのが、車両保険です。契約した保険金額を上限に車の修理費の実費が補償されます。車両保険には、他車との衝突や当て逃げなど、ほとんどの車両事故をカバーするタイプと、補償範囲を限定する代わりに保険料を割安にしたタイプがあります。
例えば、上述の補償範囲を限定したタイプでは電柱やガードレールへの接触など、単独事故は補償されません。また、当て逃げなど相手の登録番号や運転者・所有者が特定できない事故では補償されない場合もありますので、車両保険を選ぶ際には注意しましょう。
※ ソニー損保では、保険始期日が2024年1月1日以降の場合は「エコノミー型」の車両保険でも当て逃げによる修理費等を補償します。
ソニー損保の自動車保険についてはこちら。
無保険車との事故でも慌てずに対処するために
世の中を走る車のすべてが、任意保険に加入しているとは限りません。事故が起きても、加害者が無保険車だと賠償してもらえない可能性があることや、賠償してもらえたとしても十分な補償が得られず、損害の自己負担が発生する可能性があります。
さらに、示談交渉も当事者同士の交渉となるケースがあり、十分な補償が得られないこと、解決に時間を要することなども考えられます。そういったときには、自賠責保険の被害者請求や政府保障事業など、国が用意する救済制度の利用や弁護士への相談も検討しましょう。
そして、自分自身でも任意保険に加入し、人身傷害補償保険や車両保険を付帯するなど、無保険車との事故に備える心構えが大切です。
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- 駐車場内で、隣の駐車車両に接触・衝突
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- 赤信号で交差点に進入した直進二輪車と青信号で進入した直進四輪車の事故
- 同程度の道幅の交差点での事故(二輪車が左方、四輪車が右方の場合)
- 同程度の道幅の交差点での事故(四輪車が左方、二輪車が右方の場合)
- 四輪車に一時停止の規制がある場合の事故
- 同程度の道幅の交差点での事故(四輪車が左方、二輪車が右方の場合
- 信号機のある交差点に、直進二輪車・右折四輪車ともに青信号で進入した場合の事故
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- 信号のない交差点で、左折する四輪車が、後方から直進してきた二輪車を巻込む事故
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- 広い道路からの自転車と、狭い道路からの四輪車の事故
- 広い道路からの四輪車と、狭い道路からの自転車の事故
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- 自転車側に一時停止(止まれ)の規制がある場合
- 自転車が優先道路を走行している場合
- 四輪車が優先道路を走行している場合
- 四輪車が一方通行を逆走している場合
- 自転車が一方通行を逆走している場合
- 同程度の道幅の交差点における「ながらスマホ」の自転車と四輪車の事故
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- 高速道路での事故
- 四輪車同士の事故
- 四輪車が加速車線、二輪車が本線車道を走行中の事故
- 二輪車が加速車線、四輪車が本線車道を走行中の事故
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