自動車保険における全損とは?
定義や支払われる保険金、役立つ特約をFPが解説

乗用車とトラックが衝突した交通事故のイメージ(前方部分が損傷した車両のイラスト)

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この記事で分かること

  • 全損には「物理的全損」と「経済的全損」の2種類がある
  • 全損時の保険金は契約時の車両保険金額が上限で、免責金額は差引かれない
  • 新車買替特約や車両全損時復旧費用特約で補償の不足をカバーできる
  • 全損で保険金を受け取ると、原則として車の所有権は保険会社に移る
  • 飲酒運転など約款の免責事由に該当すると保険金は支払われない

交通事故で車が大きく損傷し、修理できない状態になることを「全損」といいます。全損になると、車両保険に加入していても、支払われる保険金は契約時に設定した金額が上限となります。契約時の金額は減価償却された時価額が設定されるため、新しい車の購入費用を全額カバーできないケースも珍しくありません。

この記事では、自動車保険における全損の定義から、支払われる保険金の仕組み、全損時に備えておきたい特約、保険金を受取るまでの流れと注意点まで、分かりやすく解説します。事故に備えて、今の補償内容が十分かチェックしておきましょう。

1.自動車保険における全損の定義

自動車保険でいう「全損」とは、事故で車が受けた損傷が修理不能の場合、保険金額の範囲で修理対応ができない状態、車が盗まれ発見できなかった場合を指します。全損には「物理的全損」と「経済的全損」の2つがあり、いずれに該当するかによって対応が変わることがあります。ここでは、それぞれの違いを確認しましょう。

1-1.物理的全損

物理的全損とは、事故による損傷が激しく技術的に修理が不可能な状態と、車両が盗難され発見できなかった場合のことをいいます。車体のフレームが修理不可能なほど歪んでいる場合や、水没によって主要な電子部品が機能しなくなった場合などが該当します。この場合、修理不能と判断されるため、車両保険から車両保険金額(協定保険価額)の全額が支払われます。

1-2.経済的全損

経済的全損とは、修理すること自体は可能であるものの、修理費が車両保険金額を上回る状態のことをいいます。車両保険で支払われる保険金は、あらかじめ設定した「車両保険金額」が限度となるため、修理代がそれを超えて高額になっても、保険金額以上のお金は支払われません。

例えば、車両保険金額が100万円の車に対して修理費が120万円必要な場合は経済的全損となり、この場合、受け取れる保険金は修理費の120万円ではなく、車両保険金額の上限である100万円となります。

1-3.分損との違い

全損に該当しないケースは、すべて「分損」として扱われます。分損とは、修理費が車両保険金額未満の場合を指し、実際にかかった修理費から免責金額(自己負担額)を差引いた金額が保険金として支払われる仕組みです。分損であれば修理をしてそのまま車に乗ることが可能です。

一方、全損と判定された場合は免責金額の差引きはなく、車両保険金額の全額を受け取れます。また、車両保険で支払われる保険金に加えて「全損時臨時費用保険金」を受け取れることが多いのも、分損と違うところです(詳しくは後述します)。ただし、全損で保険金を受け取ると、原則として車の所有権は保険会社に移る点には注意が必要です。

なお、車両保険の支払いは完了しますが、自動車保険契約自体が自動的に終了するわけではありません。解約する場合は、別途手続きが必要です。

2.全損時に支払われる保険金はいくら?

全損と判定されたとき、実際にいくらの保険金を受け取れるのかは、契約内容や事故の状況によって異なります。ここでは、保険金が決まる基本的な仕組みを見ていきましょう。

2-1.契約時に設定した車両保険金額が上限となる

車両保険で全損と判定された場合、支払われる保険金は契約時に設定した車両保険金額が上限です。車両保険金額は車種や年式、型式をもとに設定可能な範囲が決まっており、自由に設定できるわけではありません。なお、全損の場合は免責金額が差引かれないため、設定した金額の全額を受け取ることができます。

2-2.相手の保険から支払われるのは相手の過失割合分のみ

相手がいる事故でお客さまご自身のお車が全損になった場合、相手の対物賠償保険から支払われるのは、損害額に相手の過失割合を掛けた金額にとどまります。たとえば車の時価額が100万円で、過失割合が「相手80:自分20」の場合、相手の保険から支払われるのは80万円です。残りの20万円は自分の車両保険でカバーするか、自己負担となります。

なお、相手の過失割合が100%のいわゆる「もらい事故」では、自分に過失がないため自分が加入する保険会社は示談交渉ができません。これは弁護士法第72条の規定により、保険会社が報酬を得る目的で法律事務を行うことが禁止されているためです。そのため、相手方との交渉は自分自身で行うか弁護士に依頼する必要があります。こうした場合に備え、弁護士特約(弁護士費用特約)を付帯しておくと安心です。

2-3.古い車は修理費の全額が補償されないケースもある

車両保険金額は市場の中古車価格等を参考に設定されるため、年式が古くなるほど設定できる金額は下がっていきます。そのため、年式の古い車では修理費が車両保険金額を超えやすく、経済的全損と判定される可能性が高くなります。「まだ乗り続けたいのに、修理費用が保険金では足りない」という事態に陥りやすいのが、年式の古い車特有のリスクといえます。

また、相手がいる事故の場合、相手の対物賠償保険から支払われるのは車の時価額が上限となります。修理費が時価額を上回った分は原則として賠償の対象外となるため、差額を自己負担しなければならないケースもあるでしょう。こうしたリスクに備えるには、「車両全損時復旧費用特約」の活用が有効です。この特約については、後述します。

3.全損時に役立つ特約もある

全損になった場合、車両保険だけでは新しい車の購入費用をまかなえないこともあります。保険会社によっては、全損時の経済的な負担を軽くするためのさまざまな特約が用意されています。ここでは、代表的な特約の補償内容を見ていきましょう。

特約の名称や補償内容は保険会社によって異なります。詳細はご自身の契約内容やパンフレットをご確認ください。

3-1.新車買替特約

新車買替特約は、契約車両が車両保険の支払対象となる事故で全損になった場合や、修理費が新価保険金額(新車購入価格に基づき契約時に設定)の50%以上になった場合などに、新車の購入費用または修理費を補償する特約です。

新車買替特約をつけていれば、契約時に設定した新車価格相当額(例:300万円)を上限に補償されるため、事故により車を買替える場合の新車購入時の自己負担を抑えられるケースがあります。ただし、事故日の翌日から6ヵ月以内に車を買替えるなどの条件があることが一般的です。また、盗難に遭い車が発見されなかった場合は新車買替特約の適用対象外となることが多く、他の特約から再取得時の費用が支払われる場合には重複して受け取れない等の制限事項がある点には注意が必要です。

3-2.車両全損時復旧費用特約

車両全損時復旧費用特約は、新車買替特約をセットできない年式の車等を対象に、全損時の買替え費用を補償する特約です。車両保険の支払対象となる事故で修理できない場合や、修理費が車両保険金額以上となる場合に、「復旧費用限度額」を上限として買替え費用または修理費の実費が支払われます。さらに、車を買替えた場合には「再取得時諸費用保険金」として、復旧費用限度額の10%前後が追加で支払われます。

3-3.車両全損時臨時費用の補償

車両全損時臨時費用は、車両保険をつけている契約に付帯される補償で、自動付帯とする保険会社もあれば、特約として任意(オプション)でつけることができる保険会社もあります。

支払われる金額は、全損と判定された場合に、車両保険金額の10%(上限20万円)といった設定が一般的ですが、会社によっては5%の場合もあります。ただし、新車買替特約や車両全損時復旧費用特約から「再取得時諸費用保険金」が支払われる場合は、車両全損時臨時費用は支払われない点に注意しましょう。

3-4.事故時レンタカー費用特約

事故時レンタカー費用特約は、車両保険の支払対象となる事故で契約車両が使用できなくなった場合に、修理期間中や買替えまでのレンタカー費用を補償する特約です。契約時に設定した金額が1日あたりの上限となるほか、補償される利用日数にも上限(一般的に30日間など)が定められていますので、契約時に確認しておきましょう。また、利用できるレンタカー事業者に条件がある場合もあり、保険会社の事前承認なくレンタカーを借り入れた場合は補償できない可能性があるので、注意しましょう。

通勤や家族の送り迎えなどで日常的に車を使う人には、全損で車を失った際のつなぎとして役立ちます。車両保険をつけている場合にセット可能なケースが一般的です。

4.全損確定から保険金受取りまでの流れ

事故で車が全損になった場合、保険金を受け取るまでにはいくつかのステップがあります。いざというときに落ち着いて対応できるよう、あらかじめ流れを把握しておきましょう。

4-1.事故報告と損害の調査

事故が発生したら、まず安全を確保したうえで警察と保険会社に連絡と、ケガ人がいる場合は救急車を呼びましょう。多くの保険会社では事故受付の専用窓口が設けられており、電話やウェブサイトから報告できます。保険会社によって連絡経路はさまざまですので、あらかじめご自身で扱いやすい方法を確認しておきましょう。ロードサービスが必要な場合は、事故の連絡時に併せて依頼するとスムーズです。

事故報告を受けた保険会社は、損害の程度を確認するために「アジャスター」と呼ばれる損害調査の専門スタッフを手配します。車はディーラーや修理工場に入庫し、アジャスターが損傷状態を確認したうえで、修理費の見積りと車両保険金額を比較して全損か分損かの判定を行います。

4-2.全損の認定と保険金額の提示・合意

全損と認定されると、保険会社から支払われる保険金額が提示されます。車両保険の場合は契約時に設定した金額が支払額となり、これに付帯補償(車両全損時臨時費用など)が加算されます。提示された金額を確認し、次の手続きに進みましょう。

相手がいる事故の場合は、並行して過失割合の交渉が行われます。車両保険からすでに保険金を受け取っている場合、この交渉は保険会社同士のやり取りとなるため、契約者が受け取る金額には影響しません。一方、車両保険に未加入の場合は、過失割合によって相手の対物賠償保険から支払われる金額が変わるため、合意に時間がかかることがあります。不安な場合は担当者に進捗を確認するとよいでしょう。

4-3.必要書類の提出と保険金の入金

保険金額の確認後、保険会社から案内される必要書類を提出します。一般的には保険金請求書、車検証のコピー、印鑑証明書、委任状などが求められます。全損の場合は車の所有権を保険会社に移す手続きも併せて必要となるため、案内に沿って漏れなく準備しましょう。

書類の確認が完了すると、指定した銀行口座に保険金が振り込まれます。保険法上、書類提出後30日以内の支払いが原則とされていますが、内容に問題がなければ比較的短期間で入金されることもあります。ただし、事故の内容によっては確認に時間がかかることもある点に留意しておきましょう。

5.知っておきたい全損時の注意点

全損時には、保険金の受取りだけでなく注意すべきポイントがいくつかあります。思わぬトラブルを避けるために、主な注意点を事前に確認しておきましょう。

5-1.全損になった車の所有権は保険会社へ移る場合がある

全損時の所有権移転は、誤解が多いポイントの一つです。車両保険から全損の保険金(車両保険金額の満額)を受け取ると、その車の所有権は保険会社に移転することがあります。これは保険法第24条(残存物代位) の考え方にもとづくもので、損害に対する保険金を全額受け取った以上、車の残存価値は保険会社に帰属するという法的な仕組みです。

所有権が移転した場合、全損と判定された車を勝手に廃車手続きしたり、部品を取り外して転売したりすることはできません。また、車内の荷物などの私物は、車を引き渡す前に必ずすべて回収しておきましょう。引き渡し後の回収は難しくなる場合があります。全損と判定された車を手元に残したい場合は、事前に保険会社に相談してください。

5-2.翌年の保険料への影響がある

車両保険を使った場合、翌年のノンフリート等級に影響があります。一般的に、たとえば車同士の事故や電信柱への衝突などの事故では3等級ダウンとなり、「事故あり係数適用期間」が3年加算されます。等級が下がると翌年以降の保険料が上がるため、新しい車で契約する際はこの点も考慮しておきましょう。

なお、盗難の場合は多くの会社で「1等級ダウン事故」の扱いとなり、事故あり係数適用期間の加算も1年にとどまります。事故の種類によってダウン数が異なるため、あらかじめ確認しておきましょう。

ただし、全損の場合は受け取る保険金が数十万円から数百万円と高額になるケースがほとんどです。翌年以降の保険料の値上がり額と受け取る保険金を比較すると保険を使用した方が有利になるケースが一般的ですが、迷った場合は、保険会社による保険料の値上がり額の試算結果を確認したうえで判断しましょう。

5-3.保険金が支払われないケースもある

車両保険に加入していても、全損であれば必ず保険金が支払われるわけではありません。約款に定められた「免責事由」(保険会社が保険金の支払いを免除されるケース)に該当する場合等は、保険金の支払い対象外となります。

車両保険の代表的な免責事由としては以下のようなケースが挙げられますが、詳細は加入する保険会社に確認してください。

  • 飲酒運転や無免許運転、危険ドラッグの使用による事故
  • 契約者や被保険者の故意による事故
  • 地震・噴火・津波によって生じた損害
  • 経年劣化や故障(※)など、事故以外の原因による損害

ただし、故障補償特約など故障損害を補償する特約がセットされている契約の場合、故障の状況によっては補償を受けられます。

安全な運転を心がけることはもちろん、契約の際に補償の対象外となるケースも把握しておきましょう。

6.自動車保険における全損に関するQ&A

ここまで全損時の保険金や特約について解説してきましたが、実際にはローンの設定や事故の相手方の保険加入状況など、個別の事情によって対応が変わることもあります。ここでは、全損に関してよくある疑問をQ&A形式で取り上げます。

6-1.ローンが残っている車が全損になったらどうなりますか?

車が全損になっても、自動車ローンの支払義務が消滅することはありません。車両保険の補償をつけている場合は、保険金をローンの返済に充てることが可能ですが、保険金額がローン残高を下回る場合は、差額を自己負担で返済し続ける必要があります。

また、車両保険金の使い道については、車の所有権が誰にあるかによって判断できる人が異なります。銀行のマイカーローンなどで自分自身が所有者となっている場合は、車両所有者が使い道を決められます。しかし、ディーラーローンなどでは、ローン完済まで車の名義(所有権)がローン会社に留保されている場合があります。これを「所有権留保」といい、所有権留保の場合、車両保険金は優先的にローンの清算に充てられるのが一般的です。

廃車の手続きにあたってもローン会社の同意が必要となるため、ローンが残っている場合はその契約内容を事前に確認しておきましょう。新しい車の購入にあたって追加のローンを組む際は、返済の負担が増えることも想定しておく必要があります。

6-2.もらい事故で相手が無保険だった場合はどうなりますか?

相手が自動車保険(任意保険)に加入していない場合、相手の対物賠償保険からの支払いは受けられません。自分が車両保険に加入していれば車両保険金を受け取ることができますが、車両保険に未加入の場合は相手に直接損害賠償を請求することになります。この観点でも車両保険を付帯しておけば安心です。

こうした場合に備えて有効なのが「弁護士特約」です。自分に過失がない「もらい事故」では、法律上の制限により自分が加入している保険会社が示談交渉できないため、自分自身で事故の相手方との交渉を進める必要があります。弁護士特約をセットしていれば、たとえば相手が無保険で賠償に応じない場合でも、弁護士への相談費用や委任費用が保険から補償されます。弁護士を通じて損害賠償の請求を進められるため、精神的、また事務的な負担が大きく軽減されます。しかし、相手に支払能力がないと、賠償金の回収が難しいケースもあるでしょう。

また、人身傷害保険に加入していれば、相手が無保険であっても自分や同乗者のケガに対する補償を受けることができます。万が一の事態に備えて、車両保険・弁護士特約・人身傷害保険を組み合わせることも選択肢の一つとして検討するとよいでしょう。

7.全損リスクには「車両保険金額」と「特約」での備えがカギ。今すぐ補償の確認を

自動車保険の全損には、事故等で車が受けた損害が一定の基準を超え損傷が修理不能の場合、また車が盗まれ発見できなかった場合の「物理的全損」、保険金額の範囲で修理対応ができない状態の「経済的全損」があります。いずれの場合も、車両保険で支払われる保険金は契約時に設定した車両保険金額が上限となります。そのため、年式が古い車や時価額が低い車では、受け取った保険金だけで新しい車を購入できないケースも考えられます。

こうした補償の不足に備えるには、新車買替特約や車両全損時復旧費用特約といった車両保険の上乗せ特約の活用が有効です。また、全損時に保険金が全額支払われると、原則として車の所有権が保険会社に移ることや、翌年の等級に影響があるといった注意点も正しく理解しておく必要があります。