高額療養費制度のポイント〜民間医療保険の保険金を受取っても給付されます〜
2023年5月時点の内容です。
民間医療保険の保険金を受取ると高額療養費の給付は受取れない、と誤解されている方もいらっしゃいますが、実は受取れます。高額療養費と民間医療保険の関係は少しわかりづらい部分もありますので、ファイナンシャルプランナーの深沢さんに解説していただきました。
最近、ファイナンシャルプランナーとして生活者の方々と接していると、リスクマネジメントに関する意識が向上してきていると感じます。特に世帯の人数にかかわらず、身近なリスクのひとつとして考えられるのが、病気やケガによる医療費の経済的な負担です。
医療費が高額となった場合のリスクマネジメントとして、「高額療養費」の認知度が高まっています。その一方で、この制度に関して誤解されているケースも散見されます。
そこで公的医療保険制度の「高額療養費」で間違えやすいポイントを確認し、民間の保険会社の「医療保険」との関係について解説します。
高額療養費とは
念のため、高額療養費の制度をおさらいしておきましょう。
高額療養費は、公的医療保険制度(会社員は健康保険、自営業者は国民健康保険など)の給付のひとつです。1ヵ月間に支払った医療費の自己負担分(いわゆる「一部負担金」)が大きくなった場合、収入に応じて設定された1人あたりの自己負担限度額を超える分が払戻されます。
1.間違えやすいポイントその1〜払戻される金額は?〜
「ご存じですか?高額療養費制度」で紹介されている表は、「自己負担限度額(月額)」です。この計算式で求めた金額が払戻されるのではなく、この計算式で求めた金額を「超えた分」が払戻されるのです。会社員の人で、加入している健康保険組合によっては、付加給付でこの自己負担限度額が引下げられている場合もあります。
2.間違えやすいポイントその2〜公的医療保険が適用外の治療等は除外〜
高額療養費の自己負担限度額を計算する際の「医療費」は、公的医療保険が適用となる治療・投薬などが対象です。
公的医療保険適用外である治療・差額ベッド代・食事代などは含みません。
したがって、先進医療などで高額な医療費がかかった場合でも、高額療養費の給付対象になりません。
3.間違えやすいポイントその3〜自己負担額の集計は暦の上の「1ヵ月」〜
高額療養費の自己負担額を集計する際の期間である「1ヵ月」とは、毎月1日から末日までの暦の上での「1ヵ月」です。たとえば3月10日〜4月9日の1ヵ月で自己負担額が一定額を超えても、3月1日〜3月31日の期間で一定額を超えなければ、3月分の高額療養費は給付の対象となりません。
なお、医療機関が発行した処方せんに基づいて薬局で薬を購入した場合は、薬局で支払った自己負担額について、処方せんを発行した医療機関で支払った自己負担額に合算することができます。このような合算できるケースをお忘れなく。
高額療養費の給付と民間の医療保険の保険金は両方受取れます。
高額療養費の制度のもうひとつの留意点として、生命保険・損害保険の保険金を差引く必要はないことが挙げられます。
生命保険や損害保険の「医療保険」(民間の医療保険)に加入し、入院や手術を受けた場合に保険金・給付金が支払われる場合があります。このときに高額な医療費がかかったために高額療養費の制度を利用しようとする際、次のように誤解をしている人がいるようです。
(誤解の例)
- 民間の医療保険の保険金・給付金を受けた場合、高額療養費は受けられない。
- 公的医療保険の高額療養費の自己負担限度額を計算する際に、支払った医療費の金額から、民間の医療保険から受取った保険金・給付金の額を差し引かなければならない。
これらはすべて誤解です。公的医療保険、民間の医療保険の両方から、所定の給付が受けられます。民間の医療保険からの保険金・給付金の支払いを受けても、高額療養費に影響はありません。また、高額療養費の給付額の計算においては、民間の医療保険から支払われる保険金・給付金を差引く必要はありません。
高額療養費と医療費控除の違い
1.所得税・住民税の制度である「医療費控除」
医療費が高額となったときの負担軽減措置として、「医療費控除」の制度があります。前述の高額療養費は公的医療保険の制度ですが、医療費控除は所得税・住民税の制度です。
以下の計算式で算出した金額が納税者の所得から控除されて課税対象となる金額が減少した結果、所得税・住民税が軽減されます。この算式で計算した金額が戻るわけではない点に注意してください。
2.高額療養費と医療費控除の相違点
前述の医療費控除額の計算式の中で、「実際に支払った医療費の合計額」には、公的医療保険適用外の治療・投薬などを含めることが可能です。この点は高額療養費の制度と異なります。
もうひとつ、高額療養費と異なるのは、この計算式にあるように、「保険金などで補てんされる金額」を差引かなければならない点です。これは、公的医療保険からの給付や、民間の医療保険から支払われる保険金・給付金のうち、医療費の補てんとなるものです。(*)
(*)医療費の補てんとされるものは以下のとおりです。
- 生命保険契約や損害保険契約に基づいて、医療費の補てんを目的として支払いを受ける入院保険金、入院保険金、傷害保険金など
- 社会保険や共済に関する法律やその他の法令の規定に基づき、医療費の支払いを事由として支給を受ける給付金((家族)出産育児一時金、高額療養費など)
- 医療費の補てんを目的として支払いを受ける損害賠償金
つまり、前述の高額療養費による給付額は差引かなければなりませんので、注意してください。
ただし健康保険制度の傷病手当金や出産手当金のように、所得を補償する給付は差し引く必要はありません。
まとめ
医療費が高額となる生活設計上のリスクをカバーするためには、公的医療保険の制度、税制による負担軽減措置のポイントを正確におさえていく必要があります。誤った理解をしていると、適切なリスクマネジメントを行うことができないでしょう。
また、今後これらの制度の内容が変更される可能性もあります。ウェブサイトの情報や専門家のアドバイスを受けるなど、常にアンテナをはりめぐらせておきたいものです。
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