公開日:2023年8月30日
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床上浸水や土砂災害といった水災による住宅等の損害は、火災保険の補償対象です。火災保険は火災のみならず、自然災害や偶然の事故による損害でも補償を受けられ、そこに水災も含まれます。ここでは、水災補償の内容や、居住地の水災リスクの確認方法などを解説します。
火災保険の水災補償とは
火災保険における水災とは、台風や暴風雨、豪雨等を原因とする以下の災害を指します。
- 豪雨等で河川の水位が上がり、堤防を越えて水があふれ出る「洪水(=外水(がいすい)氾濫)」
- 豪雨等で河川外の住宅地等の排水が困難となり浸水する「内水(ないすい)氾濫」
- 豪雨や融雪等が原因で山地の斜面の土砂や岩石が急激に移動する「土砂災害(土砂流、地すべり、がけ崩れ)」
- 大雨や気温の急上昇等とともに流域内の積雪が大量に融けて引起こされる「融雪洪水」
- 台風等の襲来で波が高くなり、海面の水位も上昇する「高潮」
上記の災害で以下のような被害を被ったとき、水災として補償されます。
- 豪雨で近所の川が氾濫し、床上浸水した
- ゲリラ豪雨でマンホールから水が噴き出し、床上浸水した
- 台風による豪雨で土砂崩れや落石が起き、住宅が損壊した
- 積もった雪が融けて洪水となり、床上浸水した
- 台風により高潮が発生し、低地にある住宅が床上浸水した など
水災で住宅や家財に深刻な被害が及ぶことは少なくありません。修繕等に必要となる資金が保険金でカバー出来れば、生活再建がよりスムーズに進められるでしょう。水災補償はこれらの被害に備える有力な手段のひとつと位置付けられます。
公的な支援金は被害が全壊でも最大300万円
住まいが自然災害で被災したときには公的支援もありますが、その内容が限定的であることを理解しておきましょう。
住宅が被災したときの主な制度には、70万6千円を上限に、日常生活に不可欠な部分の応急的な修理を受けられる「住宅の応急修理制度」、住宅全壊等の世帯に最大300万円を支給する「被災者生活再建支援制度」があります。支給を受けられるかどうかは、自治体が住宅の損害状況を調査・発行する、り災証明書(罹災証明書)の区分に応じて決まります。
り災証明書の区分に対応する主な公的支援
住宅の被害の程度 (損害割合) |
住宅の応急修理 (災害救助法) (最大70万6千円) |
被災者生活 再建支援制度 (最大300万円) |
|
---|---|---|---|
り災証明書の損害区分 | 全壊 (50%以上) |
△ (※1) |
〇 |
大規模半壊 (40%以上 50%未満) |
〇 | 〇 | |
中規模半壊 (30%以上 40%未満) |
△ (※2) |
〇 (※3) |
|
半壊 (20%以上 30%未満) |
△ (※2) |
× | |
準半壊 (10%以上 20%未満) |
△ (※2) |
× | |
準半壊に 至らない 一部損壊 (10%未満) |
× | × |
り災証明書の損害区分 | ||||||
---|---|---|---|---|---|---|
住宅の被害の程度 (損害割合) |
全壊 (50%以上) |
大規模半壊 (40%以上 50%未満) |
中規模半壊 (30%以上 40%未満) |
半壊 (20%以上 30%未満) |
準半壊 (10%以上 20%未満) |
準半壊に 至らない 一部損壊 (10%未満) |
住宅の応急修理 (災害救助法) (最大70万6千円) |
△ (※1) |
〇 | △ (※2) |
△ (※2) |
△ (※2) |
× |
被災者生活再建支援制度 (最大300万円) |
〇 | 〇 | 〇 (※3) |
× | × | × |
(※1)応急修理で居住可能な場合が対象
(※2)被災者の申出による資力等を勘案して給付の可否が判断される
(※3)加算支援金のみ(基礎支援金はなし)
※内閣府防災情報のページ「被災者支援」をもとに著者作成
火災保険で備える必要性
公的支援は、一定以上の深刻な被害を受けた場合が対象です。たとえ浸水の深さが浅くても、ひとたび床上浸水となれば、建具や家具、家電製品等に相当な被害が生じるでしょう。しかしながら、木造住宅の床上50p未満の浸水では罹災証明書上で「半壊」と区分され、被災者生活再建支援金の支給対象外となるのです。
浸水深による判定基準と基礎支援金(水害による被害 木造・プレハブ住宅)
最も浅い 浸水部分 |
被災者生活 再建支援制度の 基礎支援金 |
---|---|
床上1.8m以上 (全壊) |
100万円 |
床上1m以上 1.8m未満 (大規模半壊) |
50万円 |
床上0.5m以上 1m未満 (中規模半壊) |
なし |
床上0.5m未満 (半壊) |
|
床下浸水 (一部損壊) |
最も浅い 浸水部分 |
床上1.8m以上 (全壊) |
床上1m以上 1.8m未満 (大規模半壊) |
床上0.5m以上 1m未満 (中規模半壊) |
床上0.5m未満 (半壊) |
床下浸水 (一部損壊) |
---|---|---|---|---|---|
被災者生活 再建支援制度の 基礎支援金 |
100万円 | 50万円 | なし |
※内閣府(防災担当)「災害に係る住家の被害認定基準運用指針(令和3年3月)」被害認定フロー第1次調査の内容をもとに著者作成
※世帯人数が1人の場合に受取れる支援金は3/4の金額
支援金の対象になる場合でも、住宅再建や修繕費用を賄うのに充分な金額が得られるとは限りません。とりわけ深刻なのが住宅ローン債務を抱えた世帯が住宅を失うこと。新たな住まいのための負担が生じる一方で、失った住まいのローン返済が継続するからです。
公的支援のみで被災後の生活再建を図ることは、困難を伴うこともあります。手元のお金で賄うことも難しい場合のために、火災保険による事前の備えが重要になるのです。
水災補償の保険金が支払われる場合
水災の補償を受けるには、要件を満たす必要があります。以下のいずれかを満たすと損害額に応じた保険金が支払われます。(損害保険会社により認定基準が異なる場合があります。)
- 床上浸水が生じた場合
- 地盤面より45pを超える浸水により損害が生じた場合
- 建物や家財に再調達価額の30%以上の損害が生じた場合
床上浸水は、居住の用に供する部分の床に、床上以上の浸水で損害が生じていれば補償されます。床面が高い住宅などで床上浸水に至らない場合であっても、地盤面(建物が周囲の地面と接する位置)から45pを超える浸水被害は補償されます。
他方、床上浸水を伴わない土砂災害、落石などの被害は、住宅等に再調達価額の30%以上の損害が生じたときが補償の対象です。3,000万円の住宅を例にすると、土砂災害で900万円以上の損害が生じれば補償されますが、それ未満は補償されません。居住地に土砂災害等のおそれがあるときはこの点を知っておく必要があります。
また、補償が十分ではない火災保険もあります。住宅総合保険などの火災保険では、損害額ではなく損害の程度に応じて保険金を算出したり、火災保険金額の7割を保険金の上限にしたりする場合もあります。この場合、損害額の全額をカバーできないことがあります。過去に住宅ローン契約と同時に長期火災保険へ加入した場合、該当するかもしれません。折を見て契約内容を確認しましょう。
マンションでも、水災リスクに備えたほうが良い場合もあります。一般に木造住宅に比べてマンションのほうが堅固ではありますが、低層階など居住地により浸水リスクのおそれがあります。居住地のリスクを十分確認したうえで、水災補償の選択を慎重に検討しましょう。
水災補償の保険金が支払われない場合
以下の損害は水災では補償されません。
- 地震や津波が原因で起きた浸水被害や地すべり等の損害
- 暴風や竜巻などの風による損害
- 給排水設備の事故または被保険者以外の人が占有する戸室で生じた事故による水濡れ損害
- 大雨を原因としない地盤の崩落など、地盤が原因で起きた土砂災害による損害
損害保険は、その損害が生じた原因により受けられる補償が異なります。豪雨などが原因で起きた損害であれば「水災」、地震や噴火、これらによる津波が原因であれば「地震保険」、風が原因であれば「風災」と、それぞれに対応する補償でカバーされます。
また、給排水設備あるいは被保険者以外の人が占有する戸室で生じた事故による水濡れ損害は、水災ではなく「水濡れ」として補償されます。他方、大雨を原因としない地盤が原因で生じた土砂災害等は、自然災害や偶然の事故ではないため火災保険・地震保険で補償されません。
水災補償の選択は慎重に
水災の被害を受けるリスクは居住地により異なります。重要なことは、自宅に水災リスクがあるかどうか、ハザードマップ上で確認したうえで、火災保険の補償内容を慎重に検討することです。
水災を補償する火災保険や火災共済に加入していない人にその理由を問うと、約43%の人が「自宅付近で水害は起こらないと思うから」と回答しています。次に多いのが「自宅周辺で水害が起こっても自宅建物は被害を受けないと思うから」という結果でした(グラフ参照:内閣府調査(調査期間:平成28年1月7日〜17日))。
※出典:内閣府政府広報室「水害に対する備えに関する世論調査」
しかし、2018年7月豪雨で大きな被害を受けた岡山県真備町では、ハザードマップの内容を理解していた人は24%に過ぎず、居住者の7割が洪水の危険性を楽観視していたことが分かっています(平成30年7月豪雨による水害・土砂災害からの避難に関するワーキンググループ「平成30年7月豪雨における課題・実態」)。水災は大きな被害を及ぼすおそれがあるからこそ、ハザードマップに基づき、個々の世帯が必要な備えを検討することが大切です。
居住地の水災リスクはハザードマップで確認
ハザードマップは、一定の自然災害で生じる被害の範囲を地図上で示したものです。河川の氾濫による洪水、低地に水が貯まる内水氾濫や土砂災害、高潮や噴火などのハザードマップがあり、地域の災害特性に応じて市区町村が作成しています。災害時の避難場所や避難経路、避難方法なども記載されているので、被災時や避難時にも役立ちます。ハザードマップは住民に随時配布されますが、手元になくても市区町村の防災課等のウェブサイトで確認できます。
過去の災害において、ハザードマップで予測されていた浸水区域と、実際に起きた区域は多くの場合で重なっていました。居住地に水災リスクがあることがわかったら、現在契約している火災保険に水災補償を追加するか、水災補償が付帯された火災保険に加入し直すことを検討しましょう。火災保険に必ず水災補償が付帯されているわけではないので、自身の契約がどうなっているか、改めて確認してみてください。
火災保険以外に、各種の火災共済も水災リスクに対応できます(「風水害保障」)。
支払われる共済金は損害額ではなく、たとえば「加入口数×1口当たりの共済金」となるなど、損害全額をカバーできないこともあります。火災共済で備えるときは、どのようなとき、どの程度の共済金を受取れるのか、契約時に十分確認することが大切です。
水災補償はいらない?補償のミスマッチに要注意
水災補償を付帯すると、多くの場合、保険料が高くなります。しかし、保険料の安さだけを優先して、水災補償を外すことは避けましょう。しばしば「川から離れているから大丈夫」と耳にすることがありますが、過去10年間の全国の水害による浸水棟数は、内水氾濫によるものが約7割を占めます。内水氾濫とは、豪雨などで河川外の住宅地等の排水が困難となり、浸水することです。
※出典:国土交通省ウェブサイト 気候変動を踏まえた都市浸水対策に関する検討会「気候変動を踏まえた下水道による都市浸水対策の推進について 提言 参考資料」
居住地の内水危険を知りたいときは、内水ハザードマップで確認できます。ただし作成を義務付けられた自治体のうち、想定最大規模の内水ハザードマップ公表済みの自治体は、令和5年度防災白書によると未だ約9%にとどまります。多くの自治体の内水ハザードマップが今後更新されることになるので、折を見て確認しましょう。
※掲載内容は公開当時のものであり、現在と異なる場合があります。
執筆者情報 : 清水 香(しみず かおり)
1968年東京生まれ。CFP®認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。
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