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火災保険で「土砂崩れ」による損害は補償される?
補償例や必要性を解説

火災保険では火災のみならず、豪雨で起きた土砂災害による住宅等の損害も「水災」として補償されます。他方、地震等が原因で起きた土砂災害は、水災ではなく地震保険で補償されます。以下で解説します。

土砂災害による損害は原因により適用される補償が異なる

火災保険では火災のみならず、洪水や土砂災害などの自然災害や、一定の偶然な事故による損害でも補償を受けられます。
今回の記事で取上げる土砂災害とは、山地の斜面の土砂や岩石が急激に移動する現象のこと。土砂崩れや山崩れ、地すべり、土石流などが土砂災害に該当します。土砂災害は大雨や融雪、地震等が原因で発生します。どのような原因かにより適用される補償は変わります。
たとえば、大雨や融雪が原因で起きた土砂災害は火災保険の「水災」で補償されますが、地震等が原因で起きた土砂災害や山崩れは「地震保険」で補償されます。

大雨・洪水・融雪洪水などが原因の場合は「水災」で補償

大雨・洪水・融雪洪水などが原因で土砂災害が発生した場合には、火災保険の「水災」で補償されることになります。
具体的には以下のケースがあげられます。

土砂災害による自宅等の損害が水災として補償される場合、最大で火災保険金額と同額が補償されます。火災保険金額が3,000万円であれば、住宅全損時の保険金は3,000万円です。この場合、住宅等の原状回復が可能となる保険金を受取れます。

水災について詳しくは、下記ページもご覧ください。火災保険の「水災」の補償とは?補償内容とその必要性を解説

2024年10月より、水災リスクに応じた水災料率の細分化が実施される

2024年10月、多くの損保会社で火災保険料率の改定が行われます。その柱のひとつが、地域間の水災リスクに応じた水災料率の細分化です。これまで全国一律だった水災料率が、市区町村の水災リスクを反映した5区分の保険料率に変更されます。そのため、2024年10月以降を保険始期日として火災保険に加入する場合は、地域ごとに細分化した適正な料率が設定されるようになります。

参考純率における水災料率の細分化の内容は以下の通りです(損保会社により異なる場合もあります)。

  • 市区町村別の水災リスクに応じ、料率がもっとも低い1等地からもっとも高い5等地までの5区分に保険料率を細分化
  • 細分化前の保険料率と比較すると、平均で1等地は約6%低く、5等地は約9%高い水準となり、保険料率の最大較差は約1.2倍※1 ※2
  • 保険料全体(火災、風災、雪災、水災等の補償合計)での数字です。
  • 損害保険料率算出機構が算出する参考純率での数字であり、実際にご契約する際の保険料の較差とは異なります。

保険料の較差のイメージ

1等地から5等地までの水準を示す棒グラフ。1等地は約6%低い水準、5等地は約9%高い水準となり、最大と最小の較差は約1.2倍。細分化しなかった場合の水準も示されている。
出典:損害保険料率算出機構 火災保険参考純率_水災料率の細分化について

このように、2024年10月以降を保険始期日として火災保険に加入する場合は所在地により水災保険料が変わります。これまでより保険料が高くなる場合もあれば、逆に安くなる場合もあります。
ただし、注意が必要なのは、市区町村の5区分が必ずしも所在地の水災リスク度合いを示すものではない点です。相対的にリスクが低い1等地に該当していても、ハザードマップ上で確認すると所在地によりリスクが異なる場合もあります。同じ市区町村内でも洪水リスクがあったり、内水氾濫リスクがあったりする場所があるのが一般的で、なかには土砂災害警戒区域に指定されている場所もあれば、いずれの水災リスクもないとされる場所もあるでしょう。

ソニー損保より補足説明ソニー損保の新ネット火災保険では、水災リスク区分を市区町村ではなく丁目単位で判定します。

水災料率の細分化について詳しくは、下記ページもご覧ください。水災リスクの細分化とは?細分化の内容や水災料率について解説

地震・噴火などが原因の場合は「地震保険」で補償

地震が原因で土砂崩れやがけ崩れ、火山の噴火によって被った損害は、地震保険で補償されます。
具体的には以下のケースがあげられます。

地震保険は、法律に基づき政府と損保会社の官民共同で運営される保険です。そのため補償される内容や保険料が一律で定められており、どの損保会社で加入しても条件が同じであれば保険料も変わりません。
なお、建物や家財の再取得価額で保険金額を設定できる火災保険と異なり、地震保険金額は火災保険金額の30〜50%の範囲で、かつ建物は5,000万円、家財は1,000万円が設定できる上限となります。

地震が原因の場合、受取れる保険金は火災保険金額の50%が上限

地震が原因で発生した土砂災害は、地震保険で補償されます。ただし、地震保険の保険金額は火災保険金額の50%が上限となります。火災保険金額が3,000万円だと地震保険金額の上限は1,500万円ですから、受取れる保険金は最大で1,500万円です。よって水災補償のように、保険金だけで原状回復が可能な金額にはなりません。しかし、住宅等に大きな地震被害を受けたとき、たとえ50%の金額でも地震保険金を受取れれば、生活再建の助けとなることは言うまでもありません。

火災保険で土砂災害が補償されないケースもある

土砂災害で損害が生じても、以下の場合は補償を受けられません。

などがあります。以下で詳しく見ていきます。

水災の認定基準を満たしていない損害

土砂崩れを含めて、水災の補償を受けるには、以下の認定基準のいずれかを満たす必要があります。(損保会社により認定基準が異なる場合があります。)

  • 床上浸水が生じた
  • 地盤面から45pを超える浸水により損害が生じた
  • 建物や家財に再調達価額の30%以上の損害が生じた

床上浸水は、居住の用に供する部分の床に、床上以上の浸水で損害が生じていれば補償されます。床上浸水を伴わない土砂崩れやがけ崩れの災害等では、再調達価額の30%以上の損害であることが要件になります。3,000万円の住宅であれば、土砂災害等で900万円以上の損害が生じた場合に保険金が支払われますが、900万円未満の損害だと保険金が支払われません。土砂災害等のおそれがある居住地では、水災補償のこうした点をしっかりおさえておく必要があります。

水災補償の認定基準
補償される:床上浸水等の損害、床上浸水を伴う再調達価額30%未満の土砂災害等、再調達価額の30%以上の損害。補償されない:再調達価額の30%未満の土砂災害等

豪雨や地震等が原因ではない損害

豪雨や地震等が原因ではない土砂崩れやがけ崩れ等の損害は、火災保険の水災、地震保険のいずれからも補償を受けられません。たとえば、地下水等が原因で起きた地盤の崩落等で生じた損害があげられます。

火災保険の免責金額に満たない損害、地震保険の一部損に至らない損害

土砂崩れに限らず、火災保険で設定した免責金額(=自己負担額)に満たない額の損害では、保険金が支払われません。
免責金額とは自己負担額のことです。免責金額を設定している場合、損害額から免責金額を差引いた金額が支払われる保険金となります。
また、地震で生じた損害については、地震保険の認定基準である一部損(建物の損害では主要構造部の損害額が建物の時価額の3%以上〜20%未満)に至らない損害であったり、窓ガラスが割れただけで屋根や柱、壁などの主要構造部に損害が生じなかった場合、保険金は支払われません。

建物や家財以外の損害

建物や家財以外に生じた損害も補償の対象外です。土砂崩れやがけ崩れ等により自動車が埋もれ、破損することがありますが、こちらは火災保険や地震保険ではカバーできません。自動車の損害は、契約により自動車保険の車両保険で補償されます。

土砂災害の被害に遭った際の火災保険金請求の流れ

浸水や土砂災害などの被害を受けたときは、原則として訪問による立会い調査が行われます。可能な限り損害状況を撮影しておき、損保会社に連絡して訪問を受けましょう。
訪問による立会い調査では、調査員による損害に関しての説明や、保険金請求書の作成についての案内を受けたりできます。損害額が確定したら、損保会社に保険金請求書類をそろえて送付します。書類のやり取りがスムーズに進めば損害発生時から3〜4週間程度を目安に保険金が支払われます。

一般的な保険金請求フロー(水災)
水災の損害保険金の保険金請求フロー図:手順概要:損保会社に事故発生の連絡(片付ける前に、複数の角度・方向から損害状況の写真を撮っておく、後日、立会い調査の日程調整の連絡が来る)。その後、保険金請求書類の受取り(1週間程度)。被害状況の立会い調査(保険金請求書の作成について案内も受けられる)。保険金請求書類の作成・提出(保険金請求書、損害状況の写真、修理見積書等)。その後、保険金請求内容の確認・承認(1から2週間程度、書類到着後2から3営業日で連絡確認。大規模災害では時間がかかることも)。保険金受取り(1週間程度、振込金額を必ず確認)。

地震による損害では、原則として訪問による立会い調査をします。他の災害同様、片付ける前に損害状況を写真におさめましょう。被害の連絡を受けると、損保会社は地震損害の専門知識を持つ調査員を手配、立会い調査します。調査員は契約者と住宅を見て回り、ともに損害箇所の確認をします。見落としや不明点があれば調査員に伝えましょう。立会い調査から保険金の入金までは、損害状況により2週間ほどです。

一般的な保険金請求フロー(地震)
地震の損害保険金の保険金請求フロー図:手順概要:損保会社に事故発生の連絡(片付ける前に、複数の角度・方向から損害状況の写真を撮っておく、後日、立会い調査の日程調整の連絡が来る)。その後、保険金請求書類の受取り(1週間程度)。被害状況の立会い調査(保険金請求書の作成について案内も受けられる、図面を用意するとスムーズ)。調査結果の連絡(1週間程度)。保険金受取り(1週間程度、振込金額を必ず確認)。

ハザードマップで居住地の土砂災害リスクを把握する

居住地の土砂災害リスクを知るには「土砂災害ハザードマップ」を確認しましょう。ハザードマップには洪水、内水氾濫、津波、高潮などさまざまなものがありますが、土砂災害のリスクがある市区町村では土砂災害ハザードマップが作成されています。ハザードマップは市区町村から住民に配布されますが、手元になくても市区町村のウェブサイトで確認できます。
あるいは国土交通省の「ハザードマップポータルサイト」でも、市区町村を超えた広域地図で土砂災害のハザードマップを確認できます。
ハザードマップの確認で、住んでいる場所に土砂災害のリスクがあるとわかったら、水災補償や地震保険の付帯を優先的に検討することをおすすめします。

土砂災害警戒区域の指定は年々増加しており、火災保険の契約内容の見直しも大切

土砂災害などの風水害は毎年のように全国各地で発生しています。宅地開発が進むなか、土砂災害等のリスクを抱える場所も増え続けています。そこで政府は、2001年に土砂災害防止法を制定、土砂災害を防止するための工事を施す対策とともに、市民に土砂災害の危険をハザードマップで知らせたり、避難体制を整備したりする対策を推進してきました。

この法律では、「警戒区域」の指定によって、土砂災害が起こる区域を事前に示すことが求められます。自治体は土砂災害が起こるおそれがある危険箇所を調査し、住民等の生命または身体に危害が生じるおそれがある区域を「土砂災害警戒区域(イエローゾーン)」、建築物に損壊が生じ住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがある区域を「土砂災害特別警戒区域(レッドゾーン)」に指定し、ハザードマップによる周知の徹底や、宅地建物取引業者による重要事項説明を義務づけるなど体制の整備を図っています。

土砂災害警戒区域の定義と対策
区域 土砂災害警戒区域
(イエローゾーン)
土砂災害特別警戒区域
(レッドゾーン)
区域の定義 急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、住民等の生命または身体に危害が生ずるおそれがある区域 急傾斜地の崩壊等が発生した場合に、建築物に損壊が生じ住民等の生命または身体に著しい危害が生じるおそれがある区域
対策
  • 災害時要援護者関連施設利用者のための警戒避難体制の整備
  • 市町村地域防災計画への記載
  • ハザードマップによる周知の徹底
  • 宅地建物取引における措置(宅地建物取引業者は、建物の売買等にあたり警戒区域内である旨、重要事項説明の義務がある)
  • 特定開発行為(住宅地分譲・学校・医療施設等の建築のための行為)に対する許可制
  • 建築物の構造の規制
  • 建築物の移転等の勧告・支援の措置
  • 宅地建物取引における措置(宅地建物取引業者は、都道府県知事の許可を取った後でないと宅地広告や売買契約の締結ができない、かつ重要事項説明の義務がある)
土砂災害警戒区域指定状況
(2024年3月31日時点)
69万3,675区域(うち、土砂災害特別警戒区域は59万5,796区域)

現在、土砂災害警戒区域に指定されている区域は69万3,675区域で、指定される区域は年々増え続けています。自治体による区域指定が進むと、ハザードマップも更新されます。折を見て居住地のハザードマップを確認し、自宅に影響がある変更があったら火災保険の契約内容も見直しましょう。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)