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火災保険で「洪水」による損害は補償される?
補償範囲や必要性も解説

豪雨などで河川が氾濫したり、堤防が決壊したりして起きるのが洪水です。洪水で住宅等に損害が生じたとき、火災保険に「水災」の補償を付帯していれば補償されます。以下で解説します。

洪水による損害は火災保険の「水災」で補償される

気象庁によれば、洪水とは一般に「堤防の決壊や河川の水が堤防を越えたりすることにより起こる氾濫」を指し、外水氾濫と言われることもあります。洪水により、建物や家財が浸水の被害を受けたり、さらに深刻な場合には住宅が流失したりする被害を受けることもあります。たとえ浅い浸水深であっても、ひとたび浸水すれば住宅内の設備や建具のみならず、家財も使えなくなるなど、生活再建における経済的負担は想像以上に重くなるおそれがあります。

こうした損害が生じたとき、火災保険に水災補償を付帯していれば補償されます。火災保険は火災のみならず、台風や豪雨が原因で起こる洪水で住宅等に被った損害にも役立つ保険です。

火災保険の水災で補償されるケース

火災保険に水災の補償を付帯していれば、洪水で被った以下のような損害をカバーできます。なお、床上浸水として補償されるのは、土間等を除いた居住部分の床に浸水被害が生じた場合です。

  • 集中豪雨で河川が氾濫、床上まで浸水して建具に被害を受けた
  • 台風により堤防が決壊、住宅損壊のみならず家具が水没して使えなくなった
  • 雪融け水が大量にあふれる融雪洪水により、床上浸水の被害を受けた

洪水のほか、集中豪雨や台風で低地に水が貯まるなどして起こる内水氾濫や、土砂災害、落石、高潮などによる損害も水災の補償対象となっています。
たとえば、以下のような損害をカバーできます。

  • 集中豪雨で道路が冠水、住宅にも水が押し寄せて床上浸水の被害を受けた
  • 台風で起きた土砂災害により、住宅が倒壊した
  • 台風で起きた高潮により、住宅が浸水被害を受けた

水災ではこのように、河川のそばで起こる洪水だけではなく、海沿いや内陸、山沿いなど、河川から離れたところで起きる水害も補償されます。

火災保険の水災で補償されないケース

同じ水による被害でも、地震や噴火が原因で起きる津波で住宅等が被った損害は、水災では補償されません。津波による損害は、地震保険で補償されます。地震等が原因で起きる土砂災害も同様に地震保険で補償されます。
他方、マンションの上階で発生した水漏れや、給排水設備の事故が原因で生じた室内および家財の水濡れ損害は、水災ではなく火災保険の補償のひとつ「水濡れ」で補償されます。

同じ「水」による被害でも対応する補償は異なる
補償例 対応する補償
  • 集中豪雨で河川が氾濫、床上浸水の被害を受けた
  • 台風により堤防が決壊、住宅損壊および家財に被害を受けた
  • 集中豪雨で内水氾濫が起きて床上浸水の被害を受けた
火災保険の「水災」で補償される
  • マンション上階の水漏れ事故により階下住宅の水濡れが生じた
  • 給排水設備の事故により室内に水濡れが生じた
火災保険の「水濡れ」で補償される
  • 津波により住宅が被害を受けた
「地震保険」で補償される

火災保険の水災補償とは

火災保険における水災(水害)とは、台風や暴風雨、豪雨等を原因とする以下の災害を指します。

水災で建物や家財に深刻な被害が及ぶことは少なくありません。修繕等に必要となる費用が保険金でカバー出来れば、生活再建がよりスムーズに進められるでしょう。火災保険はこれらの被害に備える有力な手段のひとつと位置付けられます。

水災補償の必要性

世界的な気候変動のもと、洪水や土砂災害などの水災で思わぬ被害を受ける人が増えています。
近年、各地で台風による被害が相次いでおり、毎年のように多くの保険金が支払われています。とりわけ2018年および2019年は、複数の大型台風が襲来し、業界全体で1兆円レベルの保険金が2年連続で支払われるという異例の事態になりました。

近年の主な風水災等で支払われた保険金
年度 災害名 地域 火災・新種保険の
支払保険金
年度合計
2015年 平成27年台風15号 全国 1,561億円 1,561億円
2018年 平成30年7月豪雨 岡山・広島・愛媛など 1,673億円 1兆3,982億円
平成30年台風21号 大阪・京都・兵庫など 9,363億円
平成30年台風24号 東京・神奈川・静岡など 2,946億円
2019年 令和元年台風15号
(令和元年房総半島台風)
関東中心 4,398億円 9,579億円
令和元年台風19号
(令和元年東日本大風)
東日本中心 5,181億円
2022年 令和4年台風14号 九州中心 1,015億円 1,367億円
令和4年台風15号 静岡など 352億円
2023年 令和5年梅雨前線による大雨及び台風第2号 埼玉・愛知・和歌山など 294億円 714億円
令和5年7月7日からの大雨 秋田・富山・福岡など 420億円

洪水などでひとたび自宅が床上浸水すると、建物や家財は深刻な被害を受けます。手元資金を超える多額の住宅修繕費や、家具や家電製品の買替えが必要になることもしばしばです。
こうしたときは公的支援もあります。おもな支援に被災者生活再建支援制度がありますが、支援の対象はより被害の大きな世帯に限られ、かつ最大300万円が上限です。予測を超える水災の被害が考えられるなか、火災保険の水災補償はより多くの世帯が付帯を検討すべきといえるでしょう。

水災の補償を受けるための3つの認定基準

水災の補償を受けるうえで知っておきたいのが、3つの認定基準です。以下のいずれかを満たすと損害額に応じた保険金が支払われます。(損害保険会社(以下、「損保会社」)により認定基準が異なる場合があります。)

  • 床上浸水が生じた場合
  • 地盤面より45pを超える浸水により損害が生じた場合
  • 建物や家財に再調達価額の30%以上の損害が生じた場合

居住部分の床に、床上以上の浸水損害が生じていれば、床上浸水として補償されます。床上浸水に至らない場合でも、地盤面から45pを超える浸水被害が生じていれば補償対象です。他方、浸水を伴わない土砂災害や落石被害の場合、再調達価額の30%以上の損害が生じれば補償されますが、30%に満たない損害は補償対象外です。
たとえば再調達価額3,000万円の住宅に、土砂災害で900万円以上の損害が生じれば補償されますが、900万円未満の損害では補償されません。土砂災害や落石被害で床上浸水を伴わずに30%未満の損害が起きることも考えられるので、この点には留意が必要です。

水災補償の認定基準
補償される:床上浸水等の損害、床上浸水を伴う再調達価額30%未満の損害、保険価額の30%以上の損害。補償されない:再調達価額の30%未満の損害

水災補償について、詳しくは以下のページで解説しています。火災保険の「水災」の補償とは?

2024年10月より、水災リスクに応じた水災料率の細分化が実施される

2024年10月、多くの損保会社で火災保険料率の改定が行われます。その柱のひとつが、地域間の水災リスクに応じた水災料率の細分化です。これまで全国一律だった水災料率が、市区町村の水災リスクを反映した5区分の保険料率に変更されます。そのため、2024年10月以降を保険始期日として火災保険に加入する場合は、地域ごとに細分化した適正な料率が設定されるようになります。

参考純率における水災料率の細分化の内容は以下の通りです(損保会社により異なる場合もあります)。

  • 市区町村別の水災リスクに応じ、料率がもっとも低い1等地からもっとも高い5等地までの5区分に保険料率を細分化
  • 細分化前の保険料率と比較すると、平均で1等地は約6%低く、5等地は約9%高い水準となり、保険料率の最大較差は約1.2倍※1 ※2
  • 保険料全体(火災、風災、雪災、水災等の補償合計)での数字です。
  • 損害保険料率算出機構が算出する参考純率での数字であり、実際にご契約する際の保険料の較差とは異なります。

保険料の較差のイメージ

1等地から5等地までの水準を示す棒グラフ。1等地は約6%低い水準、5等地は約9%高い水準となり、最大と最小の較差は約1.2倍。細分化しなかった場合の水準も示されている。
出典:損害保険料率算出機構 火災保険参考純率_水災料率の細分化について

このように、2024年10月以降を保険始期日として火災保険に加入する場合は所在地により水災保険料が変わります。これまでより保険料が高くなる場合もあれば、逆に安くなる場合もあります。
ただし、注意が必要なのは、市区町村の5区分が必ずしも所在地の水災リスク度合いを示すものではない点です。相対的にリスクが低い1等地に該当していても、ハザードマップ上で確認すると所在地によりリスクが異なる場合もあります。同じ市区町村内でも洪水リスクがあったり、内水氾濫リスクがあったりする場所があるのが一般的で、なかには土砂災害警戒区域に指定されている場所もあれば、いずれの水災リスクもないとされる場所もあるでしょう。

ソニー損保より補足説明ソニー損保の新ネット火災保険では、水災リスク区分を市区町村ではなく丁目単位で判定します。

水災料率の細分化について詳しくは、下記ページもご覧ください。水災リスクの細分化とは?細分化の内容や水災料率について解説

洪水などの被災時に受けられる公的な支援制度

洪水などで浸水被害を受けたり、住宅が損壊したりしたときに受けられる公的な支援制度もあります。災害時に受けられる支援制度は、災害の規模や被害の程度により異なります。被害の程度は大きいほうから「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」「準半壊」「一部損壊」の6区分で、自治体による損害調査で区分認定が行われます。認定された区分は、支援制度を受けるときなどに必要になる、り災証明書(罹災証明書)に記載されます。

被災者生活再建支援制度は最大300万円

住宅被害が「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」の場合に対象となる支援には、被災者生活再建支援制度があります。住宅が被害を受けたときの支援で、住宅の損害程度で決まる「基礎支援金」と、住宅の再建方法で決まる「加算支援金」の2つで構成され、両方を合計した最大額は300万円です。

洪水などの水害で自治体が第1次調査を行うときは、一見して住宅全部が倒壊していたり、一部の階が全部倒壊していたりするのでなければ、住宅の浸水深(床上浸水の深さ)で損害区分を判定します(木造およびプレハブの戸建ての1〜2階建ての場合)。
浸水深による判定を行う場合、住宅流失または床上1.8m以上の浸水被害は全壊と認定され、100万円の基礎支援金を受取れます。床上1m以上1.8m未満の浸水被害は大規模半壊と認定され、基礎支援金は50万円です。他方、床上1m未満の被害は、基礎支援金の対象外です。

浸水深による判定基準と基礎支援金(水害による被害 木造・プレハブ住宅)
最も浅い
浸水部分
住宅流失または
床上1.8m以上
(全壊)
床上1m以上
1.8m未満
(大規模半壊)
床上0.5m以上
1m未満
(中規模半壊)
床上0.5m未満
(半壊)
床下浸水
(一部損壊)
被災者生活
再建支援制度の
基礎支援金
100万円 50万円 なし

被災者生活再建支援制度はこのように、一定程度の被害を受けた住宅が対象です。たとえ1m未満でも、ひとたび室内に浸水被害が生じれば、内装・設備や建具、家具や家電製品は使用できなくなるおそれがありますが、1m未満の浸水は支援制度の対象になりません。
他方、支援制度の対象になるときは深刻な被害を受けているわけですから、加算支援金を含め最大300万円の支援金があったとしても、生活再建には困難を伴うおそれがあります。
洪水による被害を受けて暮らしを立て直すにあたり、公的支援のみや、手元資金で対応することも難しい場合もあるため、火災保険の水災による備えが重要になります。

洪水被害に遭った際の火災保険金請求の流れ

洪水など水災で被害を受けた場合、原則として訪問による立会い調査が行われます。損保会社に連絡して日程を調整し、訪問を受けましょう。

広域災害では被災世帯が多数にのぼり、訪問までに時間を要することも考えられます。被災したら、損害状況の撮影をしておきましょう。浸水被害に遭ったときは、浸水の跡にメジャーをあてて、浸水深が分かるようにその部分を撮影します。遠景、近景ともに複数枚撮影して状況がよく伝わるようにします。土砂災害も同様です。

訪問による立会い調査では、調査員による説明を受けられ、保険金請求書作成について案内を受けることもできます。その後、保険金の額について通知を受け、損保会社に保険金請求書類をそろえて送付します。書類のやり取りがスムーズに進めば、損害発生時から3〜4週間程度を目安に保険金が支払われます。

一般的な水災の保険金請求フロー
水災の損害保険金の保険金請求フロー図:手順概要:損保会社に事故発生の連絡(片付ける前に、複数の角度・方向から損害状況の写真を撮っておく、後日、立会い調査の日程調整の連絡が来る)。その後、保険金請求書類の受取り(1週間程度)。被害状況の立会い調査(保険金請求書の作成について案内も受けられる)。保険金請求書類の作成・提出(保険金請求書、損害状況の写真、修理見積書等)。その後、保険金請求内容の確認・承認(1から2週間程度、書類到着後2から3営業日で連絡確認。大規模災害では時間がかかることも)。保険金受取り(1週間程度、振込金額を必ず確認)。

ハザードマップで居住地の洪水リスクを確認して備えよう

火災保険の水災料率は地域ごとに細分化されるものの、このリスク区分は居住地の水災リスク度合いを必ずしも意味しません。たとえばリスク区分が相対的に水災リスクが低いとされる1等地の場合でも、場所により洪水や土砂災害が発生するおそれがあります。したがって実際に水災補償の選択を検討するときには、これまで通りハザードマップを確認して判断することが基本になります。

ハザードマップは、一定の自然災害で生じる被害の範囲を地図上で示したものです。火山や土砂災害、高潮や内水氾濫などさまざまなハザードマップがありますが、洪水ハザードマップについてはほとんどの自治体が作成・公表しています。ハザードマップ上には災害時の避難場所や避難経路、避難方法なども記載されているので、被災時や避難時に役立てることもできます。市区町村のウェブサイトで随時更新されるので、最新のハザードマップを確認するようにしましょう。

そのほかに国土交通省が作成・公表している「ハザードマップポータルサイト」もあり、こちらは広域地図で災害予測を確認できます。「わがまちハザードマップ」と「重ねるハザードマップ」の2つで構成されており、「わがまちハザードマップ」は市区町村が作成・公表した各種ハザードマップを閲覧できます。「重ねるハザードマップ」は、洪水・土砂災害・高潮・津波のリスク情報、さらに道路防災情報、土地の特徴・成り立ちといった情報を、地図や写真に重ねて表示できます。ウェブサイト等で情報提供されていますので、居住地のリスクをしっかり確認のうえ、水災の補償も見直して備えるようにしましょう。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)