公開日:2023年8月30日

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台風で住宅等に損害を受けたときは、火災保険で補償されます。一口に台風と言っても、大雨などの水で被害を受ける場合と、暴風などの風で被害を受ける場合があります。保険金を受取るには、それぞれに対応する補償が必要です。以下で解説します。
台風の被害は火災保険で補償される
台風によって建物や家財に被害を受けたときは、火災保険で補償されます。近年、各地で台風による被害が相次いでおり、毎年のように多くの保険金が支払われています。とりわけ2018年および2019年は、複数の大型台風が襲来し、業界全体で1兆円レベルの保険金が2年連続で支払われるという異例の事態になりました。
近年の主な風水災等で支払われた保険金
年度 | 災害名 | 地域 | 火災・新種保険の 支払保険金 |
年度合計 |
---|---|---|---|---|
2015年 | 平成27年台風15号 | 全国 | 1,561億円 | 1,561億円 |
2018年 | 平成30年7月豪雨 | 岡山・広島・愛媛など | 1,673億円 | 1兆3,982億円 |
平成30年台風21号 | 大阪・京都・兵庫など | 9,363億円 | ||
平成30年台風24号 | 東京・神奈川・静岡など | 2,946億円 | ||
2019年 | 令和元年台風15号 (令和元年房総半島台風) |
関東中心 | 4,398億円 | 9,579億円 |
令和元年台風19号 (令和元年東日本大風) |
東日本中心 | 5,181億円 | ||
2022年 | 令和4年台風14号 | 九州中心 | 1,015億円 | 1,367億円 |
令和4年台風15号 | 静岡など | 352億円 |
※日本損害保険協会「ファクトブック2022」、「2022 年度に発生した風水災等に係る各種損害保険の保険金支払状況について」をもとに著者作成
地球温暖化の影響で、将来はさらに台風による被害が多い状況に拍車がかかるおそれがあります。
ICPP(国連気候変動に関する政府間パネル)は、温室効果ガスの排出状況に応じた、将来の世界平均気温上昇推移シナリオを公表しています。2021年第6次報告書によれば、2021年〜2040年の間に気温が1.5℃上昇する(1850〜1900年を基準)可能性があるとされています。10年に1度発生するような大雨が降る頻度は、気温が1.5℃上昇すると1.5倍、2℃上昇すると1.7倍、4℃上昇すると2.7倍発生する可能性が高くなると見込まれています。
損害保険料率算出機構(※)によれば、地球温暖化が進むと年間の台風発生数は減少が見込まれる一方、台風の中心気圧が低下して強い台風が襲来することになり、その結果、台風による全体の損害額はさらに増える可能性が高いと考えられています。
※出典:損害保険料率算出機構「地球温暖化で変わる台風リスク」
被災者生活再建支援金は最大300万円
台風による住宅被害には公的支援もあります。主な公的支援に、住宅の被害区分に応じた支援金が支払われる「被災者生活再建支援制度」があります。ただし、住宅全壊かつその後に住宅を再建するという経済負担がある場合でも、支給される支援金の上限額は300万円です。
平成30年7月豪雨では、岡山県や広島県等で多くの世帯に住宅被害が発生しました。この災害で被災した世帯に支払われた公的な支援金の総額は約187億円(※)だった一方、火災保険金(新種保険含む)の総額は1,673億円に上っています。公助を上回る保険金が、被災した人々の生活再建を支えている現実があります。
※出典:内閣府防災情報のページ「被災者生活再建支援制度に係る支援金の支給について」(2023年5月31日時点)
台風などの自然災害への備えに火災保険は必要
支援金だけで生活をもとに戻せるとは限らないこと、生活基盤を取り戻すのに手元資金だけで対応することは多くの場合、困難を伴うこともあることから、火災保険による自然災害への備えは欠かせなくなったと言えるでしょう。
強い台風発生が予測されるなか、どのような場所であっても「これまで被害はなかったから大丈夫」とは、もはや言えません。住まいや財産を守るために、火災保険による適切な備えが重要になっています。
水による被害は「水災」・風による被害は「風災」で補償
台風被害と一口に言っても、その被害は大きく「水による被害」と「風による被害」の2つに分かれます。そのいずれかで、適用される補償が変わります。
- 豪雨が原因の洪水や土砂崩れなどによる被害→「水災」として補償
- 強風・暴風が原因の風による被害→「風災」として補償
以下で、「水災」「風災」それぞれで補償されるケース、されないケースについて確認しましょう。
「水災」で補償されるケース


「水災」とは、台風・暴風雨・豪雨などによる洪水、融雪洪水、高潮、土砂崩れ、落石等で生じた損害のことを言い、以下のような損害が該当します。
- 台風で堤防が決壊し、床上浸水した
- 豪雨で裏山が崩れる土砂災害が発生し、住宅が損壊した
- 台風による高潮で浸水被害が生じた
- 河川の流域内の積雪が大量に融けて洪水となり、床上浸水した など
台風による豪雨など「水」が原因で起きた損害は水災として補償されます。
※水災補償に関する内容は、以下のページで解説しています。
水災については、損害が以下のいずれかの認定基準を満たす場合に保険金が支払われます。(損害保険会社(以下「損保会社」)により認定基準が異なる場合があります。)
- 床上浸水が生じた場合
- 地盤面より45pを超える浸水により損害が生じた場合
- 建物や家財に再調達価額の30%以上の損害が生じた場合
床上浸水は、居住の用に供する部分の床に、床上以上の浸水で損害があれば補償されます。床面が高い住宅などで床上浸水に至らない場合であっても、地盤面(建物が周囲の地面と接する位置)から45pを超える浸水被害は補償されます。床上浸水を伴わない土砂災害等の被害は、建物の再調達価額の30%以上の損害が生じることが要件です。たとえば、保険価額の30%以上の損害を対象とする場合、2,000万円の住宅に対し600万円以上の損害が生じれば補償されますが、600万円未満の損害では補償を受けられません。土砂災害や土石流などの被害が想定される警戒区域に住んでいる場合、この点に十分留意しましょう。
「水災」で補償されないケース
他方、「水」に関連する損害であっても、以下のようなケースでは水災補償を受けられません。
- 窓を開けたまま外出、その後の豪雨で室内が水浸しになった
- 台風による豪雨などが原因ではない落石による損害
- 津波による浸水被害 など
窓を開けたままで豪雨に見舞われれば、被害を受けるのは必然です。火災保険は自然災害や一定の偶然な事故による損害をカバーすることが目的なので、必然の損害は補償されません。
台風等が原因でない落石損害は、「建物の外部からの物体の落下・衝突による損害」として補償されることになります。なお、台風による高潮の被害は水災で補償されますが、地震もしくは噴火またはこれらによる津波が原因で起きた床上浸水や土砂災害は、水災ではなく「地震保険」で補償されます。
損害保険は、「何が原因で損害を受けたか」で適用される補償が変わってきます。原因に適用する補償を付けていない場合は、補償されません。困った時に「そんなはずでは」とならないよう、契約内容を確認しておきましょう。
「風災」で補償されるケース
「風災」とは、台風・旋風・竜巻・暴風により生じた損害のことを言い、以下のようなケースが該当します。
- 暴風で飛来物が住宅に衝突、損壊した
- 暴風で屋根がはがれるとともに住宅のアンテナが損壊
- 暴風により近隣の物置が倒壊、自宅のガラスが割れて室内にも損害が生じた など
台風の被害でも、水ではなく風によって損害を被った場合には風災が適用されます。
2019年に襲来した令和元年房総半島台風(台風15号)は、千葉県を中心に大きな被害を及ぼしました。ゴルフ練習場の鉄柱が暴風により倒れ、周辺住宅に被害を及ぼしニュースになったのもこの台風です。暴風により近隣設備が倒れて生じたこの損害についても、加入している火災保険に風災補償が付帯されていれば保険金を受取れます。契約に含めていれば、車庫などの付属設備も、住宅の一部として補償されます。
なお、風災は「風災、ひょう災、雪災」の3つがセットの補償となっていることも多く、その場合はひょう災・雪災による損害を受けたときも補償を受けられます。
「風災」で補償されないケース
他方、以下のようなケースでは、風災補償を受けられません。
- 構造上もとからあった建物の隙間からの吹込み損害
- 暴風等が原因ではない建物の外部からの物体の飛来や落下・衝突等による損害 など
暴風等により建物が破壊され、そのために室内が損害を受けた場合は風災で補償されますが、構造上もとからあった建物の隙間からの吹込み損害は必然に起こること。よって保険金の支払対象になりません。また、暴風等が原因で物体が飛来・落下して生じた被害は風災で補償されますが、暴風等が原因でない場合には、火災保険の補償のひとつである「建物の外部からの物体の落下・衝突等」を付帯している場合は補償されます。
以上のように、同じ台風でも損害を受けた原因により適用される補償は異なります。適切に補償を受けられるように契約内容を確認しておきましょう。
なお、火災共済では、風災・水災の被害を一括して「風水害」としているのが一般的で、「風水害保障」でいずれの被害もカバーできます。
「水災」「風災」を問わず補償されないケース
水災、風災を問わず、火災保険で補償されないのは以下のようなケースです。
- 老朽化や経年劣化による損害
- 損害額が免責金額の範囲内
- 保険金請求の時効である事故が発生した時の翌日から3年経過してからの請求
- 損害を受けた対象(建物・家財)の契約をしていない場合
住宅は、時間の経過とともに必然的に老朽化します。火災保険は自然災害や一定の偶然な事故をカバーするのが目的ですから、必然的に起きる損害は補償の対象外となります。契約者等の故意または重大な過失で生じた損害も補償の対象外です。
免責金額(=自己負担額)にも留意しましょう。損保会社により異なりますが、免責金額は3万円、5万円、10万円などの金額を設定することができ、損害額から免責金額を差引いた額が保険金となります。よって免責金額範囲内の損害では請求できません。
なお、以前に主流商品として売られていた住宅総合保険などには、風災・ひょう災・雪災の保険金の支払い方を「フランチャイズ方式」とするものがあります。20万円など一定額以上の損害のみを補償対象とする方法で、たとえば20万円以上の損害であれば全額が補償されますが、20万円未満の場合は保険金が支払われないというもの。過去に契約した火災保険をそのままにしているなど、気になった人は折を見て契約内容を確認してみてください。
保険金請求に時効があることも知っておきましょう。一般に保険金請求は事故が発生した時の翌日から3年を経過すると時効にかかります。
最後に、火災保険は建物および家財を補償の対象にするものがあります。住宅ローンを借入れる際に銀行等から求められるのは建物の火災保険で、家財の加入は任意です。しかし、風水災で損害を受けるのは建物に限りません。床上浸水や住宅損壊により家財にも被害が生じる場合があることを踏まえ、家財を補償対象として加入することも検討してみてください。
※掲載内容は公開当時のものであり、現在と異なる場合があります。
執筆者情報 : 清水 香(しみず かおり)
1968年東京生まれ。CFP®認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。
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