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「火災保険で直せる」に要注意!
火災保険金の請求トラブルについて解説

家が火事になっていることを想像して、頭の上に質問マークを浮かべている男性のイラスト。

「火災保険を使えば無料で住宅の修理ができる」「被害の診断から保険請求までサポートする」といった、住宅業者や自称コンサルタントが突然訪ねてきたら警戒が必要です。無料どころか、高額負担を強いられるトラブルが後を絶たないからです。火災保険に絡めた訪問業者とのトラブルについて、以下で解説します。

急増する火災保険に絡めた住宅修理の契約トラブル

火災保険は、火災をはじめ、風水災などの自然災害によって建物や家財が受けた損害を補償する保険です。台風で屋根が飛んだり、雨どいが壊れたりして被害を受けたときは、まず損害保険会社(以下「損保会社」)に連絡しましょう。損保会社は生じた損害を確認して損害額を確定後、契約者に保険金を支払います。支払い保険金の請求は難しいことではなく、業者に代行を頼まずとも契約者ご自身でできます。手数料もかかりません。手続きが済めば、契約者は損害に応じた保険金を受取れて、住宅を再建したり修繕したりできます。

屋根修理・保険金申請代行の契約トラブル多発

損害状況を確認してもいないのに、「負担額なく屋根の修理ができる」「保険金請求サポートを受ければ平均〇万円の火災保険金を受取れる」と勧誘する訪問業者が突然現れ、契約を結ぼうとすることがあります。
そもそも、保険金が受取れるのか、そしてそれがいくらになるのかは、損害調査の結果を待たなくてはわかりません。したがって、こうした勧誘自体がおかしなことなのです。しかし、ほとんどの人は火災保険金を請求した経験がありません。「無料なら」と依頼すると、「業者の手数料として保険金の〇割の手数料を請求されて修理ができなくなった」、「被害を受けていないのに損保会社にウソを言うよう強要された」、「解約を申し出ると解約料として保険金の〇割を支払うように求められた」といったトラブルが相次いでいるのです。
被災地はもちろん、過去に被災した地域のほか、被災していない地域でもこうした訪問勧誘が見られるようになっており、どこであっても日頃からの注意が必要になっています。

消費者庁や国民生活センターからの注意喚起

こうしたトラブルについて、消費者庁や国民生活センター、自治体や日本損害保険協会などは長年にわたり、消費者への注意喚起を繰返し行ってきました。にもかかわらず、PIO-NET(パイオネット:全国消費生活情報ネットワークシステム)に寄せられた2021年度の相談件数は、前年より減少したものの、2018年度の約2倍の件数です。なかには被害を受けても相談をせず、相談件数にはカウントされない泣き寝入り案件があることも考えられます。実際の被害はもっと多いかもしれません。

PIO-NETにみる「保険金が使える」と勧誘する住宅修理サービスの年度別相談件数

2018年から2021年までの年度ごとの件数を示す棒グラフ。2018年は2,610件、2019年は3,531件、2020年は6,560件、2021年は5,093件となっている。年度が進むにつれて件数が増加し、2020年にピークを迎え、その後2021年には減少している。
出典:独立行政法人国民生活センター 保険金で住宅修理ができると勧誘する事業者に注意!

行政も手をこまぬいてはいません。複数の悪質業者が法令違反などで業務停止命令などの行政処分を受けているだけでなく、詐欺罪や弁護士法違反など刑事事件に発展し、警察も動いています。故意に住宅を破損させ保険金をだまし取ろうとした悪質業者が逮捕される事態も起きており、この問題はいまや、社会問題となっている実態があります。

火災保険金の請求に関するトラブル事例

こうしたトラブルを回避するために、官公庁等に寄せられた事例をもとに勧誘パターンを確認してみましょう。

火災保険金の請求サポート費用のトラブル

火災保険に絡めた訪問業者として、以下のようなタイプがあげられます。

  • 保険金請求サポートを行い、手数料の名目で保険金の一部を請求する自称コンサルタント
  • 住宅の点検・修理と保険金請求サポートまでを一連のサービスとして行う住宅業者

保険金の請求サポートとは、保険金の請求を代行するなどしてコンサルティング料を請求するものです。請求される手数料は保険金の数割、しばしばみられるのが3〜4割です。
火災保険金が支払われることを前提に、実質負担なしに修理するとして、保険金の請求サポートから住宅修理までを一連のサービスとするタイプの業者もいます。無料点検と言いながら「作業前に契約を強要」されたり、「廃材などを使い、ずさんな住宅修理」をされたりするなどの事例が国民生活センターに寄せられています。

契約解除時の違約金等の不正請求トラブル

ある住宅業者は、契約者が工事着工前に契約を解除した場合、保険金の35%もの違約金を工事請負契約上で求めていました。この内容が消費者契約法違反であり、平均的な損害の額を超えた部分については無効であるとして、適格消費者団体の消費者機構日本が2022年、当該業者に対する差止請求を提訴しました。その後、被告である当該業者が原告の訴えを認諾、裁判が終結しています。

火災保険の虚偽申告トラブル

さらに悪質なものとして、契約者が見ていないところで建物を故意に壊して保険金を請求させるケースがあります。火災や自然災害が原因の損害ではないにもかかわらず、損保会社にウソを言って保険金請求をしようと契約者をそそのかすパターンもあります。しかし、いくら悪質業者にそそのかされたとはいえ、これは保険金をだまし取ろうとする「保険金詐欺」です。立派な犯罪ですから、保険金を請求した契約者自身が詐欺罪を問われ、刑事罰に処される可能性すらあるのです。

無料点検の契約トラブル

業者の勧誘方法は以下のように多様化しています。

  • 訪問勧誘
  • インターネット広告で勧誘
  • 投げ込みチラシ
  • 電話勧誘

突然の訪問のほか、電話がかかってきたり、チラシが投込まれたりもしています。インターネット広告も多く見られ、「無料点検実施でポイント付与」「キャンペーン期間」と、特典を用いたコピーの勧誘を見かけることもあります。

こんな相談も寄せられています。自宅に損害はないのに、〇万ポイントに惹かれて無料点検を謳う業者のウェブサイトに自らアクセス。すると無料点検前に契約締結を迫られ、その契約書には保険金の〇割を業者に報酬として支払うとの記載が。本当に無料点検のみでポイントを配布していたら、業務としての持続可能性はないでしょう。「おいしい話」にはまず警戒が必要です。

相談の7割超が60歳以上

留意が必要なのは、相談の7割超が60歳以上の当事者から寄せられているということ。高齢者が狙い撃ちされている実情もあるのです。高齢の家族を守るには、訪問勧誘が来てもその場で契約をしない、家族に連絡するなどの約束事をしておきましょう。

火災保険金の請求は難しくない

勧誘時には、「保険金の請求は非常に難しい」などと契約者の不安を煽ったり、「保険金請求まで時間がない」と焦らせて契約を結ばせようとしたりする業者も見られます。「保険会社は再調査をしないので、見落とした被害は請求できない。当社が調べれば請求できるので契約を」と言われることもありますが、真に受けないでください。火災保険金の請求も、特段難しいことはありません。

たとえば、風災やひょう災・雪災の場合の保険金請求の一般的な流れは以下のようになります。

保険金請求フロー(風災・ひょう災・雪災)

風災・ひょう災・雪災の損害保険金の保険金請求フロー図:手順概要:損保会社に事故発生の連絡(片付ける前に、複数の角度・方向から損害状況の写真を撮っておく)。その後、保険金請求書類の受取り(1週間程度。損害状況の立会い確認を要したり、修理業者への連絡が行われることも)。保険金請求資料の作成・提出(保険金請求書、損害状況の写真、修理見積書等)。その後、保険金請求内容の確認・承認(1から2週間程度、書類到着後2から3営業日で連絡確認。大規模災害では時間がかかることも)。保険金受取り(1週間程度、振込金額を必ず確認)。
  • 大規模災害等の場合、上記の日数より時間がかかることがあります。

保険金請求は、契約者が損保会社に事故発生の連絡をするところが出発点です。連絡を受けた損保会社は、修理見積書を確認したり、ときには立会い調査に訪れたりして損害調査を進めます。損害調査は証拠や根拠に基づいて行われ、損害額が決定されます。契約者がそれを了承したら、保険金支払いに進みます。契約者が気になることや納得できないことがあれば、具体的な内容を示して損保会社と話し合います。必要に応じて再度調査が行われることもあります。

保険金の請求期限は3年

火災保険も含め、損害保険の保険金請求期限は損害が発生した日の翌日から3年です。ただし、住宅等の補償を受けるには災害や事故との因果関係を証明する必要があります。時間が経過すれば証明が困難になることも考えられるので、軽微な損害も含め、損害が生じていたら早めに損保会社に連絡を。それが後々のトラブルを防ぐことにもつながります。

火災保険金請求のトラブルに遭いそうなときの相談窓口

訪問業者が現れた時の基本対応は、まず応じないこと。応じると長時間居座ったり、焦らせたりしてくるので、断るのが余計難しくなります。その場を凌ぐためにと契約してしまうと、事態の解決がより困難になります。万が一、契約をしてしまった場合でも、一定条件のもと「クーリング・オフ」を利用して契約を取消すことは可能です。
契約にあたり、訪問業者は消費者に対して特定商取引法に定める書類を交付する義務があります。これを受取った日から8日以内であれば、クーリング・オフを利用して消費者が一方的に契約を破棄できます。工事開始後であっても契約は破棄できます。訪問業者が「クーリング・オフはできない」など、クーリング・オフについて事実でないことを告げたり、不安を煽って従わせたりして消費者がクーリング・オフできなかったときは、8日を過ぎても契約破棄できます。

やむなくトラブルに巻込まれてしまったときの相談窓口もいくつかあります。
消費者庁の「消費者ホットライン188(いやや)」は、188とダイヤル、郵便番号等を入力すると、近くの消費生活相談窓口につながり、消費生活相談員による相談を受けられます。日本損害保険協会では、増加する災害に便乗した保険トラブル防止を目的に、2022年9月から新たに「保険金に関する災害便乗商法相談ダイヤル」を設けています。災害便乗商法では、保険金の不正請求に関わるトラブルもしばしばみられ、その通報窓口も設けられています。匿名での通報も受け付けているので、不正請求などを耳にしたときにはためらわず連絡しましょう。

保険金請求に絡むトラブル発生時の相談先

「消費者ホットライン188
(いやや!)」
消費者庁
「188」とダイヤル、郵便番号等を入力すると、身近な消費生活相談窓口の案内を受けられる
電話番号:188(全国共通3ケタ)
受付時間:年末年始を除く
10:00〜16:00 原則毎日利用可能
(12:00〜13:00除く)
「保険金に関する災害便乗商法
相談ダイヤル」
日本損害保険協会
「保険申請サポート業者から勧誘を受けた」「保険申請サポート業者との契約を解除したい」等で困っているとき相談を受けられる
電話番号:0120-309-444
受付時間:平日9:00〜17:00
(12:00〜13:00除く)
「保険金不正請求ホットライン」
日本損害保険協会
組織・個人による損害保険契約の保険金の不正請求、その恐れがある事実を知ったときの通報窓口。不正かどうか判断に迷うケースや匿名での通報も受け付ける
電話番号:0120-271-824
受付時間:平日9:00〜17:00
(12:00〜13:00除く)

損保業界のトラブル防止のための対応

本来は保険金が支払われない損害で保険金請求をそそのかし、高額の請求手数料等を請求する悪質業者が横行しているこうした現状に、約款変更でトラブルを防止しようとする動きもあります。いくつかの損保会社では、原則として損害を受けた建物を事故発生直前の状態に復旧したときにのみ保険金を支払うとする旨、約款が変更されています。

見ず知らずの訪問業者の甘言につられることなく、火災保険に関することはまず、損保会社や代理店に連絡を、と心がけてください。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)