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火災保険ってどんな保険?
補償内容や選び方の基本を解説

火災保険とは?

家が火事になっていることを想像して、頭の上に質問マークを浮かべている男性のイラスト。

「保険」は、将来の不測の事態で家計が転覆するのを防ぐ手立てのひとつです。一口に保険といってもさまざまなものがあり、生命保険や医療保険といった「ヒト」にかけるもののほか、自動車保険や火災保険など「モノ」にかけるものもあります。

それぞれの保険の必要性や優先度は、個々の家族や暮らし方により異なります。しかし、ここで取り上げる火災保険は、不測の事態から生活基盤を守るため、生涯を通じ、誰もが欠かすことのできない保険といえます。

「誰もが欠かすことができない」と言われると、意外に思われるかもしれません。ほとんどの人は、何らかの形で火災保険に加入しているでしょう。住宅ローンを借り入れるとき、あるいは賃貸借契約を結ぶとき、あまり気にかけずに加入した方も多いはずです。

自然災害や思わぬ事故などで、生活基盤を失う可能性は誰にでもあります。こうした事態はコントロールできず、経済的損害は数千万円レベルとなることもあります。被災後の生活再建は容易でなく、公的支援だけでは十分な金額とならないのが現実です。
しかし、厳しい状況でも私たちの暮らしは続きます。住宅や家財の原状回復を図り、新たな暮らしを再出発させなくてはなりません。

そこで、その後に不本意な選択を余儀なくされることなく、可能な限り自分らしい暮らしを守るための手立てとなるのが「火災保険」なのです。

火災保険が欠かせない理由 - 「もらい火に救済なし」の現実

「火災保険」はその名の通り、主に火災によって被った住宅や家財の損害をカバーする保険です。建物の不燃化が進み、火災損害はかつてより減ってきています。それでも火災保険が不可欠とされるのは、以下の理由があるからです。

自宅が火元でなくても、火災被害に遭う可能性はあります。隣家の火災はコントロールできず、延焼の回避も困難です。さらに、一方的に延焼被害を受けたとしても、原則として火元に賠償請求はできません。

わが国で私人の生活関係のルールを定めるのは民法です。第709条「不法行為」では、故意または過失により第三者に損害を与えたときの損害賠償義務が定められています。
たとえば、自動車事故で人にけがを負わせたり、クルマに損害を与えたりした加害者は、被害者に対し法律上の損害賠償責任を負うことはご存じでしょう。同様に、隣家から一方的に延焼被害を受ければ、火元から損害賠償を受けられると考えるのが自然でしょう。

しかし、火災の場合には民法の特別法である通称「失火責任法」があり、火元に重大な過失がない限り、民法709条は適用されません。つまり、隣家からの延焼被害で住まいや財産をすべて失ったとしても、火元に賠償請求はできないのです。

この規定が設けられた明治時代は木造住宅が多く、火災が起きれば延焼は不可避で、大火となる可能性もありました。どんなに気を付けても、誰であっても、不注意から火災を起こす可能性をゼロにはできません。それは現代も同じでしょう。自らも財産を失った火元に、責任のすべてを負わせるのは酷であるとの理由から、規定が設けられたのです。

これが、自分の住まいや財産を守るため、誰しも火災保険が欠かせない理由のひとつです。

補償の選び方 - 自然災害による被災、公的支援は限定的

もうひとつ、考えておくべきなのが自然災害リスクです。
気候変動の影響もあり、各地で風水害による損害が相次いでいます。被災で住まいを失う事態に陥れば、暮らしへの影響は計り知れません。

多くの人は公的支援に期待しています。代表的な制度である「被災者生活再建支援制度」は、一定以上の自然災害で住まいが損害を受けたときの給付で、全壊時の被災者生活再建支援金は100万円、その後の住宅再建で200万円が給付されます。

最大300万円が給付されることは重要です。しかし、深刻な被害を受けつつ生活再建に取り組む世帯にとって、心もとない金額と言わざるを得ないのも事実です。

「被災者生活再建支援金」の額
基礎支援金
(被害程度)
加算支援金
(再建方法)
合計
全壊・解体・
長期避難
100万円 建設・購入 200万円 300万円
補修 100万円 200万円
賃借(除、公営住宅) 50万円 150万円
大規模半壊 50万円 建設・購入 200万円 250万円
補修 100万円 150万円
賃借(除、公営住宅) 50万円 100万円
中規模半壊 建設・購入 100万円 100万円
補修 50万円 50万円
賃借(除、公営住宅) 25万円 25万円

もし火災保険に加入していなければ、住宅ローン返済中の被災はとりわけ厳しいものになります。住まいを失ってもローン返済はなくなりません。新たな生活を始めるには、買うにせよ借りるにせよ住まいは欠かせず、二重の住居費負担という最悪の事態に陥る可能性もあるのです。
誰もが被災する可能性がある現在、火災保険の自然災害に備えるという意味合いは強くなっています。

火災保険は以下のような損害に備えることができます。

火災保険の補償内容
補償項目 補償内容
偶然な事故 火災 火災による損害
破裂・爆発 気体または蒸気の急激な膨張を伴う破裂などの損害
水濡れ 給排水設備の事故または他の戸室で生じた漏水等による損害
物体の落下・衝突 建物外部からの物体の落下や衝突、接触、倒壊等による損害
騒擾(そうじょう) 騒擾及びこれに類似の集団行動又は労働争議に伴う暴力行為もしくは破壊行為による損害
盗難 盗難によって生じた盗取、損傷、汚損による損害
自然災害 落雷 落雷による損害
風災 台風・旋風・竜巻・暴風等による損害
ひょう災 ひょうによる損害
雪災 豪雪の際の雪の重みや落下による事故、雪崩による損害
水災 台風・暴風雨・豪雨などによる洪水や融雪洪水、高潮、土砂崩れ、落石などによる損害

火災保険はどれも同じではなく、どのような補償を受けられるかは契約により異なります。いくつかの補償を束ねたパッケージ型や、補償をひとつずつ選べるカスタマイズ型などタイプもいくつかあります。補償が手厚ければ安心感がある一方、保険料も比例して膨らみます。補償に優先度をつけて選択することも、時には必要になるでしょう。
火災保険の選び方でとりわけ大切なのは、居住地や住まいのリスクを踏まえて補償を選ぶことです。必要な補償を適切に確保できれば、火災保険に安心と納得感が得られるでしょう。

目的は「住宅」と「家財」の原状回復

火災保険でカバーできるのは、住宅(住まい)や家財(持ちもの)が偶然な事故や一定の自然災害等で被った損害です。
原則として、所有者が火災保険に加入します。持ち家世帯は所有する住宅と家財について、賃貸世帯は所有する家財を対象に火災保険に加入します。

火災保険の対象「住宅」「家財」とは?
住宅 家財
定義 土地に定着している「建物」のこと。 建物内に収容されている、
本人や家族の「生活用の持ちもの」のこと。
含まれる
もの
電気・ガス・エアコン等、キッチン浴槽等、
門・垣・物置などの付属設備が含まれる

電化製品・家具・衣服・調理具・食器・楽器・PCその他。

貴金属や宝石、美術品などの「ぜいたく品」は、
事前申告しないと「家財」と見なされず補償されない場合がある

含まれない
もの
屋外設備や装置 自動車、動植物、通貨、有価証券、
預貯金証書、印紙、切手類

火災保険金の役割は、これらに生じた損害を“穴埋め”することです。損害以上に利益を得るものではありません。よって火災保険では、住宅では再建に要する金額、家財では再取得に要する金額を最大損害額と見積もり、保険金額とします。つまり、火災保険金額とは保険金の最大額のことであり、この金額を上限として、実際の損害額が保険金として支払われるのが火災保険の基本的な仕組みです。

ここは生命保険とは異なる重要なポイントです。本人が死亡したとき、保険金額が保険金として支払われるのが生命保険です。保険金額とは支払われる保険金の額のことであり、残された家族の状況を勘案して、本人が金額を決められます。

生命保険との違いでみる火災保険の特徴
火災保険 生命保険
目的は? 偶然な事故や災害で損害を被った住宅や家財の原状回復 遺された家族の生活保障など
支払われる
保険金の額は?
保険金額を上限に実際の損害額が支払われる 契約した保険金額が保険金として支払われる
公的給付
(支援)はある?
一定の災害時に最大300万円の支援金など 遺族年金
(例:遺族が子2人と妻で月約10万円)
いつまで必要? 一生涯 自分の死亡で経済的に困る人がいるあいだ

火災保険では、再建金額ベースを上回る保険金額を設定しても、損害額を超える保険金は支払われないため無駄になります。一方、再建金額を大幅に下回る保険金額では、支払われる保険金が不足して原状回復が困難になります。適正な保険金額であることが、火災保険を十全に役立てるためにとりわけ重要になります。

火災保険料はリスクと補償の範囲に応じて決定される

補償を受けるため私たちが負担する火災保険料は、都道府県と建物構造を主な要素として決定されます。堅固なマンションのほうが木造住宅より保険料が安く、台風が多く到来する土地のほうが、そうでない土地より保険料が高くなります。
補償範囲でも保険料は変わります。補償を限定すれば保険料は安く、手厚くなるほど高くなります。

さらに近年は、立地や住宅のリスクをより反映した保険料が設定される傾向があります。築年数が浅い物件や損害の発生リスクが低い立地の物件は保険料が抑えられる一方、損害の発生リスクが高く見込まれる立地や物件は高くなります。現在、より細かな単位での立地の浸水リスクを反映した保険料の検討が進められており、今後、被災リスクの低い立地の保険料がより安くなる一方、高い立地はより高くなる可能性もあります。
このように、火災保険料は住まいのリスクを知る“モノサシ”のひとつになり得ます。被災リスクの低い立地や住まいであれば、安全確保とともに、火災保険料も軽減できます。

執筆者清水香1968年東京生まれ。CFP 登録商標 認定者。FP1級技能士。社会福祉士。消費生活相談員資格。自由が丘産能短期大学兼任教員。中央大学在学中より生損保代理店業務に携わるかたわらファイナンシャルプランニング業務を開始。2001年、独立系FPとしてフリーランスに転身。2002年、(株)生活設計塾クルー取締役に就任、現在に至る。家計の危機管理の観点から、社会保障や福祉、民間資源を踏まえた生活設計アドバイスに取り組む。一般生活者向けの相談業務のほか、執筆、企業・自治体・生活協同組合等での講演活動なども幅広く展開、TV出演も多数。公式ウェブサイト(外部サイト)